Q48 情報処理安全確保支援士
「情報処理安全確保支援士」とはどのような者か。サイバーセキュリティとどのような関係があるのか。
タグ: 情促法、情報処理安全確保支援士、情報セキュリティサービス基準
1.概要
情報処理安全確保支援士は、平成28年に創設されたサイバーセキュリティに関する専門人材の国家資格である。情報処理安全確保支援士になるためには、試験に合格するなどにより登録資格を得た上で、登録手続きをする必要があり、令和5年4月1日時点で2万人超が登録されている。情報処理安全確保支援士には、守秘義務等の義務が課されることとなるが、登録者は他の資格取得に当たって優遇を得られることがある。
2.解説
(1)意義、役割について
平成28年に情促法が改正され、国家資格として情報処理安全確保支援士(以下「登録セキスペ」という。)1制度が創設された。登録セキスペは、サイバーセキュリティに関する相談に応じ、必要な情報の提供及び助言を行うとともに、必要に応じその取組みの実施の状況についての調査、分析及び評価を行い、その結果に基づき指導及び助言を行うことその他事業者その他の電子計算機を利用する者のサイバーセキュリティの確保を支援することを業務としている。また、セキュリティの専門家のみならず、IT及びセキュリティを専門としない人にも説明・連携するという役割が求められている。
具体的には、企業の事業リスクのうち、情報セキュリティリスクについて、経営層、事業部門に対して平易な説明を行い、必要な支援、協力、連携を取り付けることや、セキュリティ事故が発生した際にも、必要な専門家と連携しながら、早期に回復できるように、経営層、事業部門、情シス部門相互間の橋渡しの推進を行うことなどが期待されている。
(2)登録セキスペとなるための要件について
登録セキスペになるためには、毎年春期と秋期に実施される情報処理安全確保支援士試験に合格するなどにより登録資格を得た上で、登録手続を行う必要がある。令和5年4月時点で21,633名が登録されている。
(3)法令上の義務等
ア 法令上の義務
- 信用失墜行為の禁止義務(情促法第24条)
- 登録セキスペは、その信用を傷つけるような行為をしてはならない。
- 秘密保持義務(情促法第25条)
- 登録セキスペは、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならない。登録セキスペでなくなった後においても同様である。
- 講習の受講義務(情促法第26条)
- 登録セキスペは、オンライン講習を毎年1回、集合講習を3年に1回受講しなければならない。
これらの義務に違反した場合、登録の取消し、又は名称の使用停止処分の対象となり(情促法第19条第2項)、秘密保持義務に違反した場合は、これに加え刑事罰の対象となる(情促法第59条第1項)。なお、これは、告訴がなければ公訴を提起することができない親告罪である(同条第2項)。
イ 名称独占(情促法第27条)
登録セキスペでない者は、「情報処理安全確保支援士」という名称を用いてはならない。逆に言えば、登録セキスペのみが、「情報処理安全確保支援士」という資格名称を名刺や論文等に掲示することができる。これに違反した場合、30万円の罰金が科される(情促法第61条第2号)。
ウ 登録の更新(情促法15条2項)
登録セキスペの有効期限は、登録日又は更新日から起算して3年であり、3年ごとに、義務付けられた講習を全て修了した上で更新手続をしなければ効力を失う(令和2年情促法改正により導入)ため、その点留意が必要である。
(4)登録セキスペとなることのメリット
登録セキスペとなった者は、毎年の講習による知識の最新化や、集合講習などの場での登録セキスペ同士のつながりなどで、継続的に知識・スキルを習得することができる。
また、登録セキスペについては、関連資格取得についての優遇措置があり、現在、情報セキュリティ監査人の業務に携わるための資格取得の優遇制度2がある。
なお、2019年8月には、登録セキスペの自己研鑽や相互共助によるスキル維持及びスキル向上の場の提供や、登録セキスペ同士のつながりを広げ深めるための交流活動などを目的とした情報処理安全確保支援士会(JP-RISSA)が任意団体として発足した。
(5)登録セキスペを社内に持つことの意義
ア ITベンダの場合
ITベンダ企業の場合、登録セキスペが社員としていることで、顧客視点でのセキュリティ要求事項の理解が進むこととなる。
また、情報セキュリティサービス(情報セキュリティ監査サービス、脆弱性診断サービス、デジタルフォレンジックサービス、セキュリティ監視・運用サービス、機器検証サービスのいずれか又は全てのサービス)に関する一定の基準を設けることで、国民が情報セキュリティサービスを安心して活用することができる環境を醸成することを目的として経産省が策定した「情報セキュリティサービス基準第3版」(令和5年3月30日)においては、情報セキュリティサービスの提供に辺り、専門性を有する者の在籍状況を技術要件としているところ、脆弱性診断サービス、デジタルフォレンジックサービス、セキュリティ監視・運用サービス、機器検証サービスの提供に必要な専門性を満たす資格者として、登録セキスペが挙げられている。
イ ユーザ企業の場合
ITを利活用する企業、組織においては、登録セキスペを社員として情報セキュリティ関連部門に配置することで、経営層と一体となったセキュリティ対策を推進することができ、例えば、セキュリティポリシーの策定、サイバーセキュリティリスクの把握及びこれに対応するために必要となる対策の検討など、自社において、対応が可能となる。
加えて、登録セキスペはセキュリティの専門家であることから、システム調達先やセキュリティベンダと密に連携を取ることができ、サイバーセキュリティリスクを許容できる程度まで低減させる対策が可能となる。
3.参考資料(法令・ガイドラインなど)
- 情促法第6条から第61条
- 経産省「情報セキュリティサービス基準第3版」(令和5年3月30日)
4.裁判例
特になし