関係法令Q&Aハンドブック

Q10 個情法の安全管理措置義務とサイバーセキュリティの関係

企業が個人情報を取り扱うに当たって、個情法が要求する安全管理措置を講ずるための具体的な対応はどのようなものか。企業が取り扱う個人情報について、保存・消去、本人からの訂正・消去等請求への対応における注意点は何か。
また、企業におけるサイバーセキュリティ対策と個情法への対応の関係性はどのようなものか。

タグ: 個情法、個人データ、安全管理措置、保有個人データ、ISO/IEC27001、JIS Q 15001、Pマーク

1.概要

個情法上、個人情報取扱事業者は、個人データの安全管理のために「必要かつ適切な」措置を講ずる必要があるところ、当該措置は、個人データの漏えい等(漏えい、滅失、毀損)をした場合に本人が被る権利利益の侵害の大きさを考慮し、事業の規模及び性質、個人データの取扱状況(取り扱う個人データの性質及び量を含む。)、個人データを記録した媒体の性質等に起因するリスクに応じて、必要かつ適切な内容としなければならない。現況調査のためには、データの棚卸とその結果に基づくリスク分析評価が有益である1

また、個人データの漏えい等を防止するためには、保有する個人データの正確性、最新性を確保しつつ、利用する合理的な必要性が直ちには存在しない個人データを保持せず、なおかつ、利用する必要がなくなった個人データを遅滞なく消去することも重要である。

2.解説

(1)はじめに

企業が個人情報を取り扱うに当たっては、原則として個情法が適用される。そこで、各々の企業は、同法が要求する安全管理措置義務とはどのようなものであるかを把握したうえで具体的な対応を行うことが求められる。

個情法第23条では、安全管理措置として「個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない」と規定しており、同規定は、取り扱う個人情報の内容、規模及び個人情報の取扱い態様に関わらず、個人情報取扱事業者に対して一律に課されるものであることから、実際に個人情報を取り扱う現場における「必要かつ適切」であると言えるための安全管理の水準設定と、具体的な措置内容を精査し、判断することが必要となる。

ここにいう「個人データ」とは、個人情報データベース等2を構成する個人情報のことをいう(個情法第16条第1項、第3項)。例えば、名刺が束のまま未整理の状態(他人には容易に検索できない独自の分類方法により分類された状態を含む)で保管されている場合は、名刺に記載された情報は、個人情報には当たるが個人データには当たらない。一方で、名刺の情報が名刺管理ソフト等で入力・整理されている場合は、特定の個人情報を検索することができるよう体系的に構成されているとして、名刺に記載された情報3は、個人データに該当する4

以下では、企業が個人データの安全管理措置義務に対応するため、また、対応の実施に際して必要となる内部規程・ガイドライン等の策定、体制整備、技術的対策等の具体的な措置について確認する。また、これらに関連するものとして、個人情報の保存・消去、本人からの訂正・消去等の請求について確認しつつ注意点に触れることとする。

(2)個情法における安全管理措置

個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい等の防止その他の個人データの安全管理のため、必要かつ適切な措置を講じなければならない。個情法ガイドライン(通則編)は、「個人データが漏えい等をした場合に本人が被る権利利益の侵害の大きさを考慮し、事業の規模及び性質、個人データの取扱状況(取り扱う個人データの性質及び量を含む。)、個人データを記録した媒体の性質等に起因するリスクに応じて、必要かつ適切な内容としなければならない。」としており、また、同ガイドラインにある手法例については、必ずしも全てに対応する必要はなく、また、適切な手法はこれらの例示の内容に限られないとしている(同ガイドライン「10(別添)講ずべき安全管理措置の内容」参照)。

同ガイドラインでは、具体的な措置として、①基本方針の策定、②個人データの取扱いに係る規律の整備、③組織的安全管理措置、④人的安全管理措置、⑤物理的安全管理措置、⑥技術的安全管理措置を列挙している。さらに、令和2年の個情法改正を踏まえたガイドラインの改正により、安全管理措置の内容として⑦「外的環境の把握」が追加された。安全管理措置は、組織的に取り組むことが肝要であるところ、具体的な措置を講じる前提として、①基本方針の策定を行うことが重要であり、同ガイドラインでは、「事業者の名称」、「関係法令・ガイドライン等の遵守」、「安全管理措置に関する事項」、「質問及び苦情処理の窓口」等を含めた基本方針を策定することが挙げられている5。②個人データの取扱いに係る規律の整備を行うに当たっては、組織的安全管理措置(③)、人的安全管理措置(④)、物理的安全管理措置(⑤)及び技術的安全管理措置(⑥)の内容を織り込むことが重要である。

③組織的安全管理措置を行うに当たっては、組織体制の整備(責任者の設置及び責任の明確化等)、個人データの取扱いに係る規律に従った運用、個人データの取扱状況を確認するための手段の整備、漏えい等の事案に対応する体制の整備、取扱状況の把握及び安全管理措置の見直しといった措置を講じることが求められる。

④人的安全管理措置を行うに当たっては、従業者に対して適切な教育を行うことが求められる。

⑤物理的安全管理措置としては、個人データを取り扱う区域の管理、機器及び電子媒体等の盗難等の防止、電子媒体等を持ち運ぶ場合の漏えい等の防止、個人データの削除及び機器、電子媒体等の廃棄が求められる。

⑥技術的安全管理措置としては、アクセス制御、アクセス者の識別と認証、外部からの不正アクセス等の防止、情報システムの仕様に伴う漏えい等の防止が求められる。

⑦外的環境の把握としては、外国において個人データを取り扱う場合、当該外国の個人情報保護制度を把握した上で、安全管理措置を講じることが求められる。

具体的な手法の例については、同ガイドラインのほか、個情法QA「1-10 講ずべき安全管理措置の内容」(Q10-1~Q10-25)等を参照されたい6

(3)保有個人データに関する安全管理措置の公表等

保有個人データとは、個人情報取扱事業者が、開示、内容の訂正、追加又は削除、利用の停止、消去及び第三者への提供の停止を行うことのできる権限を有する個人データをいい、取り扱う情報がこの保有個人データに該当する場合には、事業者は、本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合も含め、一定の事項を本人の知り得る状態に置かなければならない(以下「公表等」という。)。令和2年個情法改正に伴い、どのような安全管理措置が講じられているかについて、本人が把握できるようにする観点から、公表等すべき事項が一部追加され、保有個人データの安全管理のために講じた措置(上記(2)の①~⑦)についても公表等すべきこととなった(個情法第32条1項4号、同法施行令第10条1号。ただし、保有個人データの安全管理のために講じた措置のうち、公表等することにより保有個人データの安全管理に支障を及ぼすおそれがあるものは、同号カッコ書きにより、公表等の対象から除かれている。)。①~⑦の中で、特に⑦の「外的環境の把握」との関係については留意すべきであり、外国において個人データを取り扱う場合、当該外国の名称を明らかにし、当該外国の制度等を把握した上で講じた措置の内容を公表等する必要がある7

「本人の知り得る状態」とは、本人が知ろうとすれば知ることができる状態に置くことをいい、常にその時点での正確な内容を知り得る状態に置かなければならないと考えられている。そのため、必ずしもウェブサイトへの掲載や事務所等の窓口等へ掲示すること等が継続的に行われることまで必要ではないが、事業の性質及び個人情報の取扱状況に応じ、内容が本人に認識される合理的かつ適切な方法によらなければならない。

上記のとおり、「公表等」は、必ずしもウェブサイトへの掲載を求められるものではないが、実務上は、自社ウェブサイトに設置しているプライバシーポリシーにおいて公表する例が多いため、安全管理措置についてもここで公表することが考えられる。なお、公表等すべき事項の一部をウェブサイトに掲載して公表し、残りの事項は本人の求めに応じて遅滞なく回答する、という対応も可能である。

(4)個人データの保存・消去、本人からの訂正・消去等の請求

個人データの漏えい等を防止するためには、保有する個人データの正確性、最新性を確保しつつ、利用する合理的な必要性が直ちには存在しない個人データを保持しないことが重要である。個情法上も、個人データは、利用目的の達成に必要な範囲内において、個人データを正確かつ最新の内容に保つよう努めなければならず、また、利用する必要がなくなったときは、当該個人データを遅滞なく消去するよう努めなければならないとされており(個情法第22条)、遅滞なく消去することは、個人データの漏えい等を防止する観点からも重要である。

なお、本人は、個人情報取扱事業者に対して、当該本人が識別される「保有個人データ」(個情法第16条第4項))8の開示を請求することができる(同法第33条第1項)。

加えて、保有個人データについては、その内容が事実でない場合、利用目的の達成に必要な範囲内において、本人からの訂正等の請求に応じる義務もある(同法第34条第1項、第2項)。

このほか、本人は、個人情報取扱事業者に対し、個情法に規定された事由(目的外利用、不正取得等)がある場合に、保有個人データの利用停止等又は第三者への提供の停止を請求することができる。令和2年個情法改正により、そのような事由として、保有個人データを利用する必要がなくなった場合、保有個人データに係る報告対象事態(Q7参照)が生じる場合、その他本人の権利又は正当な利益が害されるおそれがある場合が追加されている(個情法第35条第5項)。

(5)サイバーセキュリティ対策との関係

サイバーセキュリティ基本法第2条にいう「サイバーセキュリティ」の定義(Q1参照)には、情報の安全管理のための措置をとり、それが適切に維持管理されていることが含まれており、その点では個情法に基づく個人データの安全管理措置義務と法文上類似する。

ただし、サイバーセキュリティは、個人データに限らず、不正競争防止法(平成5年法律第47号)にいう営業秘密や価値あるデータ(限定提供データ)など、「情報」を全般的に対象とするものである。また、サイバーセキュリティの定義には、情報の安全管理のみならず、情報システム及び情報通信ネットワークの安全性・信頼性も明示的に定義に含んでいる点で、個情法に基づく個人データの安全管理措置義務とは異なるといえる。

なお、企業等におけるサイバーセキュリティ対策の実効性担保のため仕組み9としては、情報セキュリティマネジメントの規格として、ISMS10要求事項を記したISO/IEC27001(JIS Q 27001)を挙げることができる。また、個人情報を対象とする日本産業規格として、JIS Q 15001(個人情報保護マネジメントシステム-要求事項)があり、一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)は、当該要求事項に基づく個人情報保護マネジメントシステムを定めていること等を条件としてプライバシーマーク(Pマーク)を付与する制度を運営している。更に、PIA11については、国際標準として、ISO/IEC 29134が、PIAの実施プロセス及びPIA報告書の構成・内容についてのガイドラインを提供しており、これの日本産業規格として、JIS X 9251がある。

3.参考資料(法令・ガイドラインなど)

  • 個情法
  • 個情法ガイドライン(通則編)
  • 個情法QA

4.裁判例

特になし


[1]

「データマッピング・ツールキット」について、下記サイトを参照。
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/independent_effort/

[2]

特定の個人情報をコンピュータを用いて検索することができるよう体系的に構成した、個人情報を含む情報の集合物、又は、コンピュータを用いてない場合であっても、紙面で処理した個人情報を一定の規則で整理・分類し、特定の個人情報を容易に検索することができるように目次、索引、符号等を付し、他人によっても容易に検索可能な状態に置いているものも該当する。

[3]

例えば、多数の個人情報が保存されているデータベースから1人分の個人情報を紙面に出力したとしても、当該紙面に記載された個人情報は個人データに該当する(個情法ガイドライン(通則編)2-6も参照)。

[4]

詳細は個情法ガイドライン(通則編)2-4、2-6を参照。

[5]

また、上記の安全管理措置を講ずるための前提として、企業内のデータの取り扱いの現況を把握することが肝要であり、実務上は、いわゆるデータの棚卸作業を行うケースがある。データの棚卸とは、手順等が確立しているものではないが、一般的に、当該企業において取り扱っているデータおよび当該データの利用態様を把握するために、各部署へ質問票を配布し、実際にデータを取り扱っている担当者に質問票の記入を求め、適宜必要な調整を行っていくという手法である。

[6]

なお、平成27年の個情法改正(平成29年施行)前は、事業に用いる個人情報データベース等の対象者が5,000人を超えない場合は、個人情報取扱事業者に該当しなかったため、安全管理措置その他の個情法上の義務は生じなかったが、同改正により、事業に用いる個人情報データベース等の対象者が5,000人を超えない場合であっても、個人情報取扱事業者に該当し、安全管理措置その他の各種義務を履行する義務が課されることとなった。ただし、個情法ガイドライン(通則編)において、従業員の数が100人以下の中小規模事業者については、取り扱う個人データの数量及び個人データを取り扱う従業員数が一定程度にとどまること等を踏まえ、講ずべきとされている安全管理措置について、円滑に義務を履行しうるような手法の例が示されている。

[7]

例えば、外国にある支店・営業所に個人データを取り扱わせる場合、外国にある第三者に個人データの取扱いを委託する場合、外国に所在するクラウドサービス提供事業者の管理するサーバに個人データを保存する場合、外国に所在するサーバに個人データを保存する場合等には、当該外国の制度等を把握した上で安全管理措置を講じる必要がある(詳細は、個情法QA10-22~10-25)。

[8]

個人データのうち、個人情報取扱事業者が、本人等から請求される開示等に応じることができる権限を有するもの。詳細は個情法ガイドライン(通則編)2-7を参照。

[9]

Q5も参照。

[10]

Information Security Management Systemの略。

[11]

プライバシー影響評価(Privacy Impact Assessment)。個人情報等の収集を伴う事業の開始や変更の際に、プライバシー等の個人の権利利益の侵害リスクを低減・回避するために、事前に影響を評価するリスク管理手法のこと。個情委の下記ページも参照。
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/independent_effort/

Q11 個人データの取扱いの委託と安全管理

委託先に個人データを取り扱わせる場合、委託元にどのような監督責任が生じるのか。

タグ: 個情法、個人データ、委託、監督、監査、外的環境の把握

1.概要

個情法では、個人データの取扱いを委託する場合に、委託先において当該個人データについて安全管理措置が適切に講じられるよう、委託先に対し必要かつ適切な監督を行うことが求められる。具体的には、①適切な委託先の選定、②委託契約の締結、③委託先における個人データの取扱状況の把握などが考えられる。

2.解説

(1)考え方

個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託1する場合は、委託先において当該個人データについて安全管理措置が適切に講じられるよう、委託先に対し必要かつ適切な監督を行わなければならない(個情法第25条)。

「全部又は一部を委託」とされているとおり、一部を委託する場合、すなわち委託元の個人データの取扱いの一部を委託先に処理させる場合はもちろん、取扱いの全部を委託する場合でも、委託元には委託先への監督責任が生じる。

具体的には、個人情報取扱事業者は、個情法第23条に基づき自らが講ずべき安全管理措置(個人データの漏えい、滅失、又は毀損の防止等)と同等の措置が講じられるよう、必要かつ適切な監督を行うものとされている。

なお、個人データの第三者提供に当たっては原則として本人の事前同意が必要だが(個情法第27条第1項)、個人データの取扱いの委託に伴って当該個人データを委託先に提供する場合には、委託先は「第三者」に該当しないとされるため、本人の事前同意を得ることなく委託先に個人データを提供することが可能である(同法第27条第5項第1号)2

(2)委託先を監督する責任の内容

委託先の監督責任の内容は、個情法ガイドライン(通則編)3-4-4によれば、委託業務の内容に対して必要のない個人データを提供しないことをはじめとして、取扱いを委託する個人データの内容を踏まえ、個人データが漏えい等(漏えい、滅失又は毀損)をした場合に本人が被る権利利益の侵害の大きさを考慮し、委託する事業の規模及び性質、個人データの取扱状況(取り扱う個人データの性質及び量を含む。)等に起因するリスクに応じた、必要かつ適切な措置を講じることとされている。

具体的には、①適切な委託先の選定、②委託契約の締結、③委託先における個人データ取扱状況の把握等が考えられる。

(3)適切な委託先の選定

委託先の選定に当たっては、委託先の安全管理措置が、少なくとも個情法第23条及び個情法ガイドライン(通則編)において委託元に求められるものと同等であることを確認するため、同ガイドライン「10(別添)講ずべき安全管理措置の内容」に定める各項目が、委託する業務内容に沿って、確実に実施されることについて、あらかじめ確認しなければならない。

(4)委託契約の締結

委託契約には、当該個人データの取扱いに関する、必要かつ適切な安全管理措置として、委託元、委託先双方が同意した内容とともに、委託先における委託された個人データの取扱状況を委託元が合理的に把握することを盛り込むことが望ましい。

(5)委託先における個人データの取扱状況の把握

委託先における委託された個人データの取扱状況を把握するためには、定期的に監査を行う等により、委託契約で盛り込んだ内容の実施の程度を調査した上で、委託の内容等の見直しを検討することを含め、適切に評価することが望ましい。

また、委託先が再委託を行おうとする場合は、委託を行う場合と同様、委託元は、委託先が再委託する相手方、再委託する業務内容、再委託先の個人データの取扱方法等について、委託先から事前報告を受けること又は承認を行うこと、及び委託先を通じて又は必要に応じて自らが、定期的に監査を実施すること等により、委託先が再委託先に対して本条の委託先の監督を適切に果たすこと、及び再委託先が個情法第23条に基づく安全管理措置を講ずることを十分に確認することが望ましい。再委託先が再々委託を行う場合以降も、再委託を行う場合と同様である。

個情法ガイドライン(通則編)「10(別添)講ずべき安全管理措置の内容」において明確に委託に言及しているものとして以下のものが挙げられる。

  • 組織的安全管理措置のうち、個人データの取扱いに係る規律に従った運用の手法例として、「個人情報データベース等の削除・廃棄の状況(委託した場合の消去・廃棄を証明する記録を含む。)」が挙げられている。
  • 物理的安全管理措置について、「個人データを削除した場合、又は、個人データが記録された機器、電子媒体等を廃棄した場合には、削除又は廃棄した記録を保存することや、それらの作業を委託する場合には、委託先が確実に削除又は廃棄したことについて証明書等により確認することも重要である。」とされている。

(6)委託先の監督責任に関する留意点

委託先の監督責任に関しては、上記のとおり個情法第25条が問題となるが、それ以外の法令が問題となる場合があるため、同法はもちろん、他の法令に適合しない対応にならないよう注意すべきである。

例えば、具体的には、優越的地位にある者が委託元の場合、委託先に不当な負担を課す場合や、従業者等から取得する個人情報に関する誓約書において損害賠償額の予定や違約金を定めることなどが労働基準法第16条に違反する場合等が挙げられる。また、いわゆるサプライチェーン・リスクに関してはQ47も参照されたい。

(7)外国における個人データの取扱い

個人情報取扱事業者は、外国において個人データを取り扱う場合3には、「外的環境の把握」として、当該外国の個人情報保護制度等を把握した上で、個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない(個情法第23条、個情法ガイドライン(通則編)10-7)。

委託先(再委託先を含む)が外国において個人データを取り扱う場合も同様であって、委託元は、当該外国の個人情報保護に関する制度等を把握した上で、委託先の監督その他の安全管理措置を講じる必要がある。その上で、「保有個人データの安全管理のために講じた措置」として、当該外国の名称を明らかにし、当該外国の制度等を把握した上で講じた措置の内容を本人の知り得る状態に置く必要がある(個情法QA10-24)。

3.参考資料(法令・ガイドラインなど)

  • 個情法第23条、第25条
  • 個情法ガイドライン(通則編)3-4-4

4.裁判例

特になし


[1]

個人データの取扱いの委託とは、契約の形態・種類を問わず、個人情報取扱事業者が他の者に個人データの取扱いを行わせることをいい、具体的には、個人データの入力、編集、分析、出力等の処理を行うことを委託することが想定される。

[2]

ただし、「外国にある第三者」の場合は、国内にある第三者とは異なる制限が設けられている。詳しくは、Q12・2(1)エ参照。

[3]

なお、外国において個人データを取り扱う場合の留意点としては、本トピックが対象としている安全管理措置との関係以外に、第三者提供との関係がある。これについては、Q12を参照。

Q12 クラウドサービスの活用と個情法

クラウドサービスを活用している場合に、個情法上どのような点に留意すべきか。

タグ:個情法、安全管理措置、委託先の監督、クラウドサービス、外国にある第三者、外的環境の把握

1.概要

第三者の提供するクラウドサービスを利用し、その管理するサーバに個人データを保存する場合において、クラウドサービスを提供する事業者(以下、本項において「クラウドサービス提供事業者」という)が当該個人データを取り扱わないこととなっている場合には、当該クラウドサービスを利用する事業者(以下、本項において「クラウドサービス利用事業者」という)は、クラウドサービス提供事業者に当該個人データを「提供」したことにはならないため、個情法第27条第1項、第28条第1項に基づく事前同意の取得は不要であり、また、個情法第25条に基づきクラウドサービス提供事業者を監督する義務は負わない。ただし、かかる場合であっても、クラウドサービス利用事業者は、自ら果たすべき安全管理措置の一環として、適切な安全管理措置を講じる必要がある。

他方、クラウドサービス提供事業者が個人データを取り扱うこととなる場合、クラウドサービス提供事業者に当該個人データを「提供」したことになるため、原則として、個情法第27条第1項、第28条第1項に基づき事前同意を得る必要がある。

2.解説

(1)クラウドサービスと個情法

ア クラウドサービス提供事業者が個人データを取り扱わない場合

第三者の提供するクラウドサービスを利用してその管理するサーバに個人データを保存する場合において、クラウドサービス提供事業者が個人データを取り扱わないこととなっている場合、クラウドサービス利用事業者は個人データを「提供」したことにはならないため、個情法第27条第1項、第28条第1項に基づく事前同意の取得は不要であり、また、同法第25条に基づく委託先の監督義務も課されないこととなる(個情法QA7-53参照)。

個情法QA7-53は、クラウドサービス提供事業者が個人データを取り扱わないこととなっている場合について、「契約条項によって当該外部事業者がサーバに保存された個人データを取り扱わない旨が定められており、適切にアクセス制御を行っている場合等」が考えられるとしている。

ただし、 クラウドサービス利用事業者は、かかる場合であっても、自ら果たすべき安全管理措置の一環として、適切な安全管理措置を講じる必要がある(個情法QA7-54参照)。特に、外国において個人データを取り扱うこととなる場合(外国に 所在する第三者の提供するクラウドサービスを利用する場合、外国に所在するサーバに個人データが保存されることとなる場合)には、当該外国の個人情報の保護に関する制度等を把握した上で安全管理措置を講じる必要がある (外的環境の把握)ため、その点についても注意が必要である(個情法QA10-25。外的環境の把握についてはQ10、Q11を参照)。

イ クラウドサービス提供事業者が個人データを取り扱う場合

クラウドサービス提供事業者が個人データを取り扱うこととなる場合、クラウドサービス利用事業者は、クラウドサービス提供事業者に対して当該個人データを「提供」したこととなるため、原則として、個情法第27条第1項、第28条第1項に基づき事前同意を得る必要がある。

すなわち、まず、日本国内に所在する第三者への個人データの提供となる場合、原則として、個情法第27条第1項に基づき、本人の事前同意を得る必要があるが、個情法第27条第1項各号の例外に該当する場合、個情法第27条第5項各号に基づき提供する場合(個人データの取扱いの委託に伴って提供する場合等)には、本人の事前同意を得る必要はない。

次に、外国に所在する第三者への個人データの提供となる場合、原則として、個情法第28条第1項に基づき、「外国にある第三者」への提供を認める旨の本人の事前同意を得る必要がある。この点に関して、前述の個情法第27条第5項各号に該当する場合(個人データの取扱いの委託に伴って提供する場合等)であっても、本人の事前同意を得る必要がある(個情法第28条には、第27条第5項に相当する規定がないため)ことに注意を要する。また、当該同意取得に先立ち、①移転先の外国の名称、②適切かつ合理的な方法で確認された当該外国の個人情報保護に関する制度に関する情報、③移転先の第三者が講ずる個人情報の保護のための措置に関する情報を提供する必要がある(同条第2項、個情法施行規則第17条第2項)1

他方、個情法第27条第1項各号に該当する場合には本人同意を得る必要はない(個情法第28条第1項において、「前条第1項各号に掲げる場合を除くほか、あらかじめ外国にある第三者への提供を認める旨の本人の同意を得なければならない」と明記されている)。また、以下の①又は②に該当する場合には、個情法第28条第1項の適用はないため(個情法第28条第1項カッコ書き)、個情法第27条の規律に従えば足りることとなる。

提供先がEU・英国に所在する場合

提供先の第三者が、EU・英国(我が国と同等の水準にあると認められる個人情報保護制度を有している外国として個情法施行規則で定める国)に所在する場合には、個情法第27条の規律に従えば足りる。

提供先が基準適合体制を整備している場合

提供先の第三者が、個人情報取扱事業者が講ずべき措置に相当する措置を継続的に講ずるために必要な体制として個情法施行規則で定める基準に適合する体制を整備している場合、個情法第28条第1項は適用されない。

具体的には、第一に、適切かつ合理的な方法によって、個情法第4章第2節の規定の趣旨に沿った措置の実施が確保されている場合であり(個情法施行規則第16条第1号)、例えば、委託契約や、提供元・提供先に共通して適用される内規によって当該措置の実施を確保する場合などがあげられる。

第二に、外国にある第三者が、個人情報の取扱いに係る国際的な枠組みに基づく認定を受けている場合であり(個情法施行規則第16条第2号)、例えば、当該第三者が、APECのCBPRシステムの認証を取得している場合、が挙げられる。

なお、提供先が基準適合体制を整備していることを根拠として外国に所在する第三者に個人データを提供する場合、個人情報取扱事業者は、当該第三者による相当措置の継続的な実施を確保するために必要な措置を講ずるとともに、本人の求めに応じて当該必要な措置に関する情報を当該本人に提供する必要がある(個情法第28条第3項)2

3.参考資料(法令・ガイドラインなど)

  • 個情法第23条、第25条、第27条、第28条
  • 個人情報の保護に関する施行規則第15条、第16条、第17条、第18条
  • 個情法ガイドライン(通則編)
  • 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(外国にある第三者への提供編)
  • 個情法QA

4.裁判例

特になし


[1]

提供すべき情報の詳細については、個人情報の保護に関する法律ガイドライン(外国にある第三者への提供編)5-2を参照されたい。

[2]

個情法第28条第3項、個情法施行規則第18条。必要措置及び提供すべき情報の詳細については、個人情報の保護に関する法律ガイドライン(外国にある第三者への提供編)6-2を参照されたい。

Q13 官民における個人情報に関する安全管理措置の相違

個人情報の適正な取扱いに関して法令上求められる安全管理措置は、個人情報を取り扱う主体に関わらず同じなのか。同じではないとしてどのように異なるのか。

タグ:個情法、行個法、独個法、個人情報保護条例、安全管理措置、個人情報の定義、漏えい等

1.概要

個人情報の適正な取扱いに関して適用される法令は、従来官民で適用される法令が異なっていたところ、令和3年に成立したデジタル社会形成整備法に基づく個情法の改正により、個情法に統合する形で一本化された。ただし、官民で全く同じ規律が適用されるわけではなく、個情法が定める安全管理措置義務の対象となる個人情報の範囲は、個人情報を取り扱う主体によって異なる。具体的には、民間企業を含む個人情報取扱事業者については「個人データ」、国の行政機関、独立行政法人等又は地方公共団体については「保有個人情報」が対象となる。なお、国立大学法人や国立研究開発法人等の個人情報の取扱いに関して民間部門と差を設ける必要性の乏しい法人や業務における個人情報の取扱い等については大部分において個人情報取扱事業者と同一の規律が適用されるなど、法令の適用関係は複雑である1

いずれにせよ、個人データや保有個人情報の漏えい等(漏えい、滅失、毀損)があった場合に本人が被る権利利益の侵害の大きさを考慮し、事業の規模及び性質、個人データや保有個人情報の取扱状況(取り扱う個人データや保有個人情報の性質及び量を含む。)、個人データや保有個人情報を記録した媒体の性質等に起因するリスクに応じて、適切な安全管理措置を実施することが求められる。

2.解説

(1)従来の法体系

我が国の個人情報保護法制は、個人情報を取り扱う主体によって、適用される法令が異なっていた。具体的には、個人情報取扱事業者については、個情法の具体的な義務規定、国の行政機関については行個法、独立行政法人等については独個法、地方公共団体については各々の地方公共団体が定める個人情報保護に関する条例(以下「個人情報保護条例」という。)が適用されていた。したがって、個人情報を取り扱う上では、まずは適用対象となる法令が何かという点に留意する必要があった。

このように、個人情報保護制度上は、個人情報を取り扱う主体ごとに適用される法令に基づき安全管理措置義務の対象となる個人情報の範囲が異なるため、個人情報を取り扱う上では、適用対象となる法令が何かという点に留意する必要があった。

(2)令和3年改正後の情報の安全管理に関する規定について

令和3年に成立したデジタル社会形成整備法により、個情法、行個法、独個法とバラバラであった個人情報の適正な取扱いに関する法制が、個情法に統合される形で一本化され、法所管が個情委に一本化された。また、地方公共団体の機関及び地方独立行政法人についても、国の行政機関や独立行政法人等と同じ規律が適用されることとなった。なお、学術研究分野に関しては、規制を統一するため、国公立の病院、大学等に原則として民間の個人情報取扱事業者と同等の規律が適用されることとなった(詳細はQ14を参照)。

ただし、官民で全く同じ規律が適用されるというわけではなく、個情法の中に民間事業者向けの規律と行政機関等向けの規律の双方が置かれている。例えば、個人情報の安全管理に関する規定については、個人情報取扱事業者には「個人データ」についての安全管理措置義務(個情法第23条)が課される2 一方で、国の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体の機関及び地方独立行政法人(以下「行政機関等」という。)には「保有個人情報」についての安全管理措置義務が課される(個情法第66条1項)34。保有個人情報とは、行政機関等の職員が職務上作成し、又は取得した個人情報であって、当該行政機関等の職員が組織的に利用するものとして当該行政機関等が保有しているもののうち、行政文書等5に記録されているものをいう(個情法第60条第1項)。したがって、データベース化などされておらず散在する個人情報(いわゆる散在情報)も、安全管理措置義務の対象となる保有個人情報に該当しうる。

一方で、個人情報取扱事業者については、散在情報に関する安全管理措置義務は課されていない。ただし、散在情報の漏えい等が発生した場合、同法が定める安全管理措置義務違反にはならないとしても、同法に関する各業種別のガイドラインに反する場合があるほか、それらの情報が個人のプライバシーに属する情報に該当する場合には、不法行為法上の責任を負う可能性がある。

(3)具体的な安全管理措置の手法

個人情報取扱事業者は、個情法ガイドライン(通則編)に記載された安全管理措置の手法の例などを参照しながら、個人データの安全管理措置を実施する必要がある。加えて、令和2年の個情法ガイドライン(通則編)の改正により、個人情報取扱事業者は、外国において個人データを取り扱う場合、安全管理措置の一環として、外的環境の把握6が必要となり、また、保有個人データの安全管理のために講じた措置の内容を本人の知り得る状態に置かなければならないこととなった(詳細はQ10、Q11を参照)。

一方で、行政機関等は、個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(行政機関等編)や、「個人情報の保護に関する法律についての事務対応ガイド(行政機関等向け)」7を参照しながら保有個人情報に関する安全管理措置を実施することとなる。デジタル化の進展とともに、安全管理措置を適切に講じるためにサイバーセキュリティの確保が重要であるとされ、サイバーセキュリティ基本法第26条第1項第2号で掲げられたサイバーセキュリティに関する対策の基準等、すなわち、サイバーセキュリティ戦略本部及びNISCが定める政府機関等統一基準群を参考として、適正な水準を確保する必要があるとされている。

(4)漏えい等発生時の対応

個人情報取扱事業者は、一定の条件を満たす個人データの漏えい等又はそのおそれのある事案が発生した場合(報告対象事態)に、個情委への報告及び本人通知を行う必要がある(個情法第26条)。

行政機関等においても、デジタル社会形成整備法による改正により、一定の条件を満たす保有個人情報の漏えい等又はそのおそれのある事案が発生した場合に個情委への報告と本人通知を行う義務が措置された(個情法第68条)。個人情報取扱事業者に対する義務との主な相違点として、以下のものが挙げられる。

まず、漏えい等発生時に対応が必要となるのは、個人データではなく保有個人情報であり、安全管理措置と同様、散在情報も含まれている。

次に、個情委への報告等が必要となる事態について、民間では、事態の一つとして、1,000人を超える個人データの漏えいが定められているが(個情法施行規則第7条)、行政機関等においては、100人を超える保有個人情報の漏えい等が発生した場合には報告等が必要となる(同規則第43条)。

なお、令和5年度より、地方公共団体の機関又は地方独立行政法人も個人情報保護法の適用対象となっているところ、これらについては、条例要配慮個人情報8が含まれる保有個人情報の漏えい等が発生し、又は発生したおそれがある事態も報告対象となる(規則第43条第5号)。

3.参考資料(法令・ガイドラインなど)

  • 個情法第23条、第26条、第66条、第68条
  • 個情法ガイドライン(通則編)
  • 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(行政機関等編)(令和4年4月1日施行)
  • 個人情報の保護に関する法律についての事務対応ガイド(行政機関等向け)

4.裁判例

特になし


[1]

Q14も参照。

[2]

この点についてQ7も参照されたい。

[3]

行政機関等から個人情報の取扱いの委託を受けた者や、公の施設の指定管理者など、一部の民間事業者等については、行政機関等と同じく保有個人情報に関する安全管理措置が準用される(前者につき個情法第66条第2項第1号、後者につき同第2号)。

[4]

なお、地方議会は、明文上、原則的に地方公共団体の機関から除外されており、「行政機関等」に含まれない(令和5年度に施行後の個情法第2条第11項第2号)。地方議会における個人情報の取扱いは、その自律的な対応に委ねられることとなる。

[5]

行政機関情報公開法(平成十一年法律第四十二号)第二条第二項に規定する行政文書、独立行政法人等情報公開法(平成十三年法律第百四十号)第二条第二項に規定する法人文書(同項第四号に掲げるものを含む。)をいい、令和5年度以降は、地方公共団体等行政文書(地方公共団体の機関又は地方独立行政法人の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録であって、当該地方公共団体の機関又は地方独立行政法人の職員が組織的に用いるものとして、当該地方公共団体の機関又は地方独立行政法人が保有しているもの(行政機関情報公開法第二条第二項各号に掲げるものに相当するものとして政令で定めるものを除く。)も含まれることになる(令和5年4月1日施行の個情法第60条第1項)。

[6]

当該外国の個人情報の保護に関する制度等を把握した上で、個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じること。

[7]

特に、「4-3 安全管理措置等」、「4-8 (別添)行政機関等の保有する個人情報の適切な管理のための措置に関する指針」。

[8]

地方公共団体の機関又は地方独立行政法人が保有する個人情報(要配慮個人情報を除く。)のうち、地域の特性その他の事情に応じて、本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして地方公共団体が条例で定める記述等が含まれる個人情報をいう(個情法第60条第5項)。

Q14 国立大学、私立大学及び企業の共同研究と個人情報の適正な取扱い

国立大学と企業、私立大学と企業がそれぞれ共同研究を行う場合のように、様々な主体が共同で個人情報を取り扱う場合について、近時の個情法の改正によってどのような変更があるか。

タグ:個情法、行個法、独個法、個人情報保護条例、安全管理措置、研究開発、適用除外

1.概要

従来、我が国の個人情報保護法制は、民間部門と公的部門とで規律する法令が異なっていた。また、個情法が適用される私立大学が学術研究の用に供する目的で個人情報を取り扱うことについては、個人情報取扱事業者の義務等が適用除外とされていた。デジタル社会形成整備法により、個情法・行個法・独個法が、個情法に統合される形で一本化された。また、学術研究機関等1による学術研究目的での取扱いについては、一律の適用除外が廃止され、個情法が適用される一方で、新たに個別の規定(目的外利用や第三者提供等)における例外規定が設けられた。

2.解説

(1)従前の規律

従来、我が国の個人情報保護法制は、民間部門と公的部門で適用される法令が異なり(Q13参照)、国立大学、公立大学、私立大学それぞれの適用法令が次のとおり異なっていた。このことは、民間部門と公的部門との垣根を超えた共同研究等の実施を躊躇させる一因となっているとの指摘があった。

主体 適用法令(デジタル社会形成整備法による改正前) 適用法令(デジタル社会形成整備法による改正後)
国立大学法人
研究開発法人

独個法

個情法

学術研究機関等においては、目的外利用、第三者提供制限等の個別の規定に例外規定を新設

公立大学

地方公共団体が定める個人情報保護条例

個情法

学術研究機関等においては、目的外利用、第三者提供制限等の個別の規定に例外規定を新設

私立大学
民間研究機関

個情法

大学その他の学術研究を目的とする機関若しくは団体又はそれらに属する者による学術研究の用に供する目的での個人情報の取扱いについて、個人情報取扱事業者又は匿名加工情報取扱事業者の義務を一律に適用除外(改正前第76条)。

個情法

学術研究機関等について左記の一律の適用除外(個情法第57条)を廃止(目的外利用、第三者提供制限等の個別の規定に例外規定を新設)。

民間企業、団体等

個情法

表現の自由、学問の自由、信教の自由及び政治活動の自由を妨げないよう個人情報保護委員会による権限行使を制限し、特に、適用除外のケースで個人情報又は匿名加工情報を提供する場合、同委員会は権限を行使しない(改正前第43条)

個情法

表現の自由、学問の自由、信教の自由及び政治活動の自由を妨げないよう個人情報保護委員会による権限行使を制限(個情法第149条)。

民間企業が、学術研究機関等に個人データを提供する場合であって、当該学術研究機関等が当該個人データを学術研究目的で取り扱う必要があるとき(個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある場合を除く。)には、利用目的制限や第三者提供制限の例外あり(個情法第18条第6号、第27条第1項第7号)。

また、共同して学術研究を行う学術研究機関等から要配慮個人情報を取得する場合であって、当該要配慮個人情報を学術研究目的で取得する必要があるとき(個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある場合を除く。)には、要配慮個人情報の取得制限の例外あり(個情法第20条第2項第6号)。

(2)デジタル社会形成整備法による改正後の規律

デジタル社会形成整備法による個情法改正等により、上記民間部門における学術研究機関等による学術研究の用に供する目的についての適用除外が廃止され、他の民間事業者と同様、個情法が適用され、安全管理措置(個情法第23条)や本人からの開示等請求への対応(同法第33条等)等に関する義務が課されることとなった。一方で、学術研究機関等が学術研究目的で個人情報を取り扱う場合について、利用目的による制限(同法第18条)、要配慮個人情報の取得制限(同法第20条第2項)、個人データの第三者提供の制限(同法第27条)等に関する例外規定が設けられた(同法第18条第3項第5号、同項第6号、第20条第2項第5号、同項第6号、第27条第1項第5号、同項第6号、同項第7号等)。

例えば、学術研究機関等は、個人データの提供が学術研究の成果の公表又は教授のためやむを得ない場合2及び共同して学術研究を行う第三者3に個人データを学術研究目的4で提供する必要がある場合5には、本人の同意なく当該個人データを第三者に提供することができ(同項第5号、第6号)、個人データを学術研究目的で取り扱う必要がある場合6には、本人の同意なく当該個人データの提供を受けることができる(第27条第1項第7号7)。

また、デジタル社会形成整備法により、民間部門・公的部門における個人情報の取扱いを規律する根拠法令が個情法に一本化され、国立大学法人や国立研究開発法人等の個人情報の取扱いに関して民間部門と差を設ける必要性の乏しい法人(以下、「個情法別表第二法人」という)については、個情法上、「個人情報取扱事業者」として扱われることとなった(同法第16条第2項第3号、同法第2条第9項、同条第11項第2号括弧書き、同法別表第二参照)8。そして、個情法別表第二法人のうち学術研究機関等における個人情報の取扱いについては、研究機関としての特性を踏まえ、基本的に上記民間部門の研究機関と同じ規律が適用されることとなった(個情法ガイドライン(通則編)2-18(※1))。

なお、個情法別表第二法人には原則として「個人情報取扱事業者」としての安全管理措置に係る個情法第23条が適用される。もっとも、個情法別表第二法人が法令に基づき行う業務のうち、公権力の行使に当たる行為を含むものを行う場合における個人情報の取扱いについては、公的部門としての安全管理措置に係る同法第66条第1項が準用される(同条第2項、同法施行令第18条各号)ため、行政機関等に係る安全管理措置義務が重ねて課されることとなる。

そして、公的な性質を有する個情法別表第二法人の特性を踏まえ、開示請求等に係る制度等については、従前と同様、公的部門における規律(同法第60条、第75条、第5章第4節等)が適用されることとなった(同法第125第2項)。そのため、保有個人データに関する事項の公表等に係る同法第32条は、個情報別表第二法人には適用されない(個情法第58条第1項)。

個情法別表第二法人は、一定の事項を記載した帳簿である個人情報ファイル簿を作成し、公表しなければならない(同法第75条第1項)ため、一定の範囲の情報は公表されるが、同法第32条第1項各号及び同法施行令第10条各号の定める公表等事項のうち、安全管理措置並びに苦情の申出先(これらに相当する事項を含む)は個人情報ファイル簿に記載されないため、個情法別表第二法人は、これらの事項を公表等する義務を負わないこととなる。

もっとも、個人情報の保護に関する基本方針において、「必要に応じて安全管理措置の内容を公表する等の透明性と信頼性を確保する取組を行うことが重要である9。」とされているところであるので、公表をすることを含め、透明性・信頼性確保に向けた取組が望まれる。

なお、地方公共団体等が設置・運営する公立大学等の研究機関10についても、個情法別表第二法人と同様、原則として民間部門の研究機関における個人情報の取扱いに係る規律が適用される一方で、開示請求等に係る制度等については、公的部門における規律が適用されることとなった(もっとも、デジタル社会形成整備法のうち、地方公共団体及び地方独立行政法人等に係る規律を改正する第51条の施行日は、令和5年4月1日である)。

3.参考資料(法令・ガイドラインなど)

本文中に記載のとおり

4.裁判例

特になし


[1]

大学その他の学術研究を目的とする機関若しくは団体又はそれらに属する者(個情法第16条第8項)。

[2]

個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある場合を除く。

[3]

第三者が研究機関であるか否かを問わない。

[4]

学術研究目的は、「学術研究の用に供する目的」と定義されており(個情法第18条第3項第5号)、「学術」とは、人文・社会科学及び自然科学並びにそれらの応用の研究であり、あらゆる学問分野における研究活動及びその所産としての知識・方法の体系をいい、具体的活動としての「学術研究」としては、新しい法則や原理の発見、分析や方法論の確立、新しい知識やその応用法の体系化、先端的な学問領域の開拓などをいうとされている(個情法ガイドライン(通則編)2-19)。

[5]

当該個人データを提供する目的の一部が学術研究目的である場合を含み、個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある場合を除く。

[6]

当該個人データを取り扱う目的の一部が学術研究目的である場合を含み、個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある場合を除く。

[7]

ただし、本人の権利利を不当に侵害するおそれがある場合は除かれる(同号カッコ書き)。

[8]

具体的には、沖縄科学技術大学院大学学園、国立研究開発法人、国立大学法人、大学共同利用機関法人、独立行政法人国立病院機構、独立行政法人地域医療機能推進機構、福島国際研究教育機構(令和5年4月1日追加)及び放送大学学園。

[9]

独立行政法人等に関して「4 独立行政法人等が講ずべき個人情報の保護のための措置に関する基本的な事項」を参照。

[10]

厳密に記載すると、①地方独立行政法人で試験研究を主たる目的とするもの又は大学等の設置及び管理及び病院事業の経営を目的とするもの(個情法第58条第1項第2号)、②地方公共団体の機関が、病院、診療所、大学の運営の業務を行う場合(個情法第58条第2項第1号)、③独立行政法人労働者健康安全機構が、病院の運営を行う場合(個情法第58条第2項第2号)の類型がある。

①は、個人情報取扱事業者に該当する(個情法第2条第11項第4号において、「地方独立行政法人」の定義から除かれる結果、個情法第16条第2項により、個人情報取扱事業者となる)ため、個情法第4章の個人情報取扱事業者等の義務等の適用がある。ただし保有個人データに関する事業の公表(第32条)、開示等請求(第33条~第39条)の規定の適用がない(第58条第1項第2号)。

②は、本来は地方公共団体の機関であり、行政機関等に該当するものである。第58条第2項第1号により、病院、診療所、大学の運営業務においては、個人情報取扱事業者による取扱いとみなされて、個人情報取扱事業者の義務(のうち、上記第32条~第39条を除くもの)が適用される。

③は、本来は独立行政法人であるが、第58条第2項第2号により、病院の運営業務においては、個人情報取扱事業者による取扱いとみなされて、個人情報取扱事業者の義務(のうち、上記第32条~第39条を除くもの)が適用される。

Q15 個人データの加工と法令上の安全管理

個人データを安全管理のため、又は利活用のために加工する場合に、法令上どのような安全管理が必要となるか。

タグ:個情法、安全管理措置義務、統計情報、仮名加工情報、匿名加工情報

1.概要

個人データを加工する場合、①安全管理のため氏名等を削除するなどの加工を施す、②仮名加工情報へ加工する、③匿名加工情報へ加工する、④統計情報へ加工する場合が考えられる。

①の場合、個人データ該当性は失われないため、個情法第23条に基づく安全管理措置など、個情法上の個人データの取扱いに係る規律を遵守する必要がある。

②の場合、個情法上の仮名加工情報の取扱いに係る規律を遵守する必要がある。例えば、仮名加工情報の安全管理措置、削除情報等の安全管理措置、識別行為の禁止、本人への連絡等の禁止等の規律を遵守する必要がある。

③の場合、個情法上の匿名加工情報の取扱いに係る規律を遵守する必要がある。例えば、匿名加工情報の安全管理措置(努力義務)、加工方法等情報の安全管理措置、匿名加工情報の作成時の公表、識別行為の禁止等の規律を遵守する必要がある。

④の場合、個情法に基づく規律はかからないが、適切に管理することが重要であると考えられる。

2.解説

(1)データの加工について

企業が保有する個人データ1を含むデータについては、データベースから一定の条件を満たすデータ等を抽出し、加工を施す等して社内外で利活用することも考えられる。

このうち、個人データを加工するという場合、①安全管理のため氏名等を削除するといった加工を施すケース、②仮名加工情報へ加工するケースや、③匿名加工情報へ加工するケース、④統計情報へ加工するケースが考えられる2

いずれの場合も、事業者が保有する個人データを元に加工を行うこととなるが、データの加工にあたっては、個情法ガイドライン(通則編)「10(別添)講ずべき安全管理措置の内容」を踏まえ、データ加工に関する手続等を含め、個人データの取扱いにかかる規律の整備などの措置を講じる必要がある。また、②の仮名加工情報及び③の匿名加工情報の場合には、個情委「個人情報の保護に関する法律ガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)」(以下、本項において「個情法ガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)」という。)及び個情委事務局「個人情報保護委員会事務局レポート:仮名加工情報・匿名加工情報 パーソナルデータの利活用促進と消費者の信頼性確保の両立に向けて」(以下「事務局レポート」という。)により、仮名加工情報・匿名加工情報の作成・利活用をサポートする情報発信がなされており、これらを踏まえて適切に加工を行う必要がある。

(2)安全管理のための加工

名簿等の個人データから、安全管理のために氏名等を削除する等の加工を施す場合がある。

個情法においては、当該情報単体で特定の個人を識別できる場合はもちろん、「他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができる」(同法第2条第1項第1号)場合も個人情報に該当するため、加工前のデータをはじめ、他の情報と容易に照合でき、それにより特定の個人を識別することができるのであれば、加工後のデータの個人データ該当性を失われず、加工後のデータについても、同法第23条に基づく安全管理措置義務が課されることとなる。

当該安全管理措置については、「個人データが漏えい等をした場合に本人が被る権利利益の侵害の大きさを考慮し、事業の規模及び性質、個人データの取扱状況(取り扱う個人データの性質及び量を含む。)、個人データを記録した媒体の性質等に起因するリスクに応じて、必要かつ適切な内容」3とすることが必要である。

(3)仮名加工情報への加工

ア 仮名加工情報制度の趣旨

近年、個人データに上記(2)で述べたような氏名を削除等する等の加工を施し利活用するニーズが高まっていたところ、このような加工を施しても、加工後のデータも個人情報に該当する場合もあり、そのような場合には、通常の個人情報としての取扱いに係る義務が一律に課されていた。一方で、このような加工がされた個人情報は、本人と紐づいて利用されることのない限り、個人の権利利益が侵害されるリスクを相当程度低下する。これらの観点から、事業者内部で個人情報を様々な分析に活用できるよう、令和2年の個情法改正で「仮名加工情報」が設けられた。

イ 仮名加工情報の定義や性質

仮名加工情報とは、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報をいう(個情法第2条第5項)。ここにいう「他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができない」とは、加工後の情報それ自体により特定の個人を識別することができないような状態にすることを求めるものであり、当該加工後の情報とそれ以外の他の情報を組み合わせることによって特定の個人を識別することができる状態にあることを否定するものではない4

仮名加工情報取扱事業者において、仮名加工情報の作成の元となった個人情報や当該仮名加工情報に係る削除情報5等を保有している等により、当該仮名加工情報が「他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができる」状態にある場合には、当該仮名加工情報は、「個人情報」に該当する。他方、委託や共同利用、事業承継等に伴って仮名加工情報の提供を受けた場合(同法第27条第5項各号)等、当該仮名加工情報の作成の元となった個人情報や当該仮名加工情報に係る削除情報等を保有していない等により、当該仮名加工情報が「他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができる」状態にない場合には、当該仮名加工情報は個人情報に該当しない6

仮名加工情報については、一定のルールに従った取扱いが求められている。まず、仮名加工情報を作成する個人情報取扱事業者は、①適正な加工、②削除情報等の安全管理措置が求められ(同法第41条第1項、同条第2項)、個人情報である仮名加工情報を取り扱うに当たっては、③利用目的による制限・公表、④利用する必要がなくなった場合の消去、⑤第三者提供の禁止、⑥識別行為の禁止、⑦本人への連絡等の禁止、が求められる(同条第3項から第8項まで)7

他方で、仮名加工情報については、個人情報、個人データ又は保有個人データに該当する場合であっても、利用目的の変更の制限(同法第17条第2項)、個人データに関する漏えい等の報告及び本人通知(同法第26条)、保有個人データに関する事項の公表等及び保有個人データの開示・訂正等・利用停止等への対応等(同法第32条から第39条まで)の規定は適用されない(同法第41条第9項)。

特に、利用目的の変更の制限がかからないことが仮名加工情報制度のポイントの一つであり、仮名加工情報は、当初の利用目的には該当しない目的や、該当するか判断が難しい新たな目的での内部分析を行うケース等での利用が想定されている。また、仮名加工情報は、事業者内部での利活用が想定されており、法令に基づく場合や、委託、事業承継又は共同利用の場合を除き、第三者提供は認められない(上記⑤。個情法第41条第6項・第27条第5項各号、同法第42条第2項・第27条第5項各号)8

ウ 仮名加工情報の適正な加工

個人情報取扱事業者は、仮名加工情報を作成するときは、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができないようにするために、個情法施行規則第31条各号に定める基準9に従って、個人情報を加工しなければならない(個情法第41条第1項、同法施行規則第31条)。

仮名加工情報を「作成するとき」とは、仮名加工情報として取り扱うために、当該仮名加工情報を作成するときのことを指し、例えば、上記(2)のように、安全管理措置の一環として氏名等の一部の個人情報を削除することは、仮名加工情報を「作成するとき」には該当しない10

エ 仮名加工情報に関する安全管理措置義務

仮名加工情報に関する安全管理措置義務としては、削除情報等の安全管理措置義務(個情法第41条第2項、同法施行規則第32条)及び仮名加工情報自体の安全管理措置義務(同法第23条、同法第42条第3項)が挙げられる。

削除情報等の安全管理措置については、同規則32条に定める基準に従い、必要な措置を講じなければならず、当該措置の内容は、対象となる削除情報等が漏えいした場合における個人の権利利益の侵害リスクの大きさを考慮し、当該削除情報等の量、性質等に応じた内容としなければならない11。同条においては、①削除情報等を取り扱う者の権限及び責任の明確化、②削除情報等の取扱いに関する規程類の整備及び当該規程類に従った削除情報等の適切な取扱い並びに削除情報等の取扱状況の評価及びその結果に基づき改善を図るために必要な措置の実施、③削除情報等を取り扱う正当な権限を有しない者による削除情報等の取扱いを防止するために必要かつ適切な措置の実施が求められている12

次に、仮名加工情報それ自体については、当該仮名加工情報が個人データ(個人情報)である場合には、個人データ全般に係る同法第23条に基づき安全管理措置義務が課され、当該仮名加工情報が個人情報でない場合には、同法第42条第3項により準用される同法第23条に基づき安全管理措置義務が課される。講ずべき安全管理措置の内容は、仮名加工情報が個人情報であるかどうかに関わらず通常の個人情報と同様と考えられるが、仮名加工情報には(通常の個人情報とは異なり)識別行為の禁止義務や本人への連絡等の禁止義務が課されている(上記イ)ことから、これらの義務に違反することがないよう、仮名加工情報に該当することを明確に認識できるようにしておくことが重要であり、仮名加工情報を取り扱う者にとってその情報が仮名加工情報である旨が一見して明らかな状態にしておくことが望ましい13

(4)匿名加工情報への加工

ア 匿名加工情報制度の趣旨

「匿名加工情報」は、個人情報を特定の個人を識別できないように加工した情報について、一定のルールの下で本人の同意を得ることなく目的外利用及び第三者提供を可能とすることにより、安全性を確保しつつ、事業者間におけるデータ取引やデータ連携を含むパーソナルデータの利活用を促進しようとするものである14。匿名加工情報の利活用による事例としては、例えば、ポイントカードの購買履歴や交通系ICカードの乗降履歴等を複数の事業者間で分野横断的に利活用することにより、新たなサービスやイノベーションを生み出す可能性などが挙げられている15

イ 匿名加工情報の定義や性質

匿名加工情報とは、特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報であって、当該個人情報を復元することができないようにしたものをいう(個情法第2条第6項)。ここにいう「特定の個人を識別することができないように」「復元することができないように」とは、あらゆる手法によって特定することができないよう(復元することができないよう)技術的側面から全ての可能性を排除することまでを求めるものではなく、少なくとも、一般人及び一般的な事業者の能力、手法等を基準として、当該情報を通常の方法により特定できない(復元できない)ような状態にすることを求めるとされている16

匿名加工情報については、一定のルールに従った取扱いが求められており、匿名加工情報を作成する個人情報取扱事業者には、個情法第43条に基づき、①適正加工、②加工方法等情報17の安全管理措置、③作成した際の情報項目の公表、④第三者提供に当たっての情報項目等の公表及び匿名加工情報であることの明示、⑤識別行為の禁止、⑥匿名加工情報の安全管理措置等が求められる(⑥については努力義務)。また、匿名加工情報の提供を受けて取り扱う匿名加工情報取扱事業者には、個情法第44条から第46条までに基づき、上記④から⑥までと同様の義務が課せられる18

匿名加工情報は、特定の個人を識別することができないものであり、かつ、作成の元となる個人情報を復元することができないように適正に加工されたものであり、さらに、個人情報に係る本人を識別することを禁止する等の制度的な担保がなされていることから、作成の基となった個人情報を通常の業務における一般的な方法で照合することができる状態にある(すなわち容易照合性がある)とはいえず、個人情報に該当しないとされており19、例えば、同法第27条第1項に基づく第三者提供に当たっての本人の同意は不要となる。

ウ 匿名加工情報の適正な加工

個人情報取扱事業者は、匿名加工情報を作成するときは、特定の個人を識別できないように、かつ、その作成に用いる個人情報を復元できないようにするために、個人情報保護法施行規則第34条各号に定める基準に従って、個人情報を加工しなければならない(個情法43条第1項、同法施行規則第34条)。

匿名加工情報を「作成するとき」とは、匿名加工情報として取り扱うために、当該匿名加工情報を作成するときのことを指し、例えば、上記(2)のように、安全管理措置の一環として氏名等の一部の個人情報を削除することは、匿名加工情報を「作成するとき」には該当しない20

エ 匿名加工情報に関する安全管理措置

匿名加工情報に関する安全管理としては、加工方法等情報の安全管理措置(個情法第43条第2項)及び匿名加工情報自体の安全管理措置義務の努力義務(同条第6項、同法第46条)が挙げられる。

加工方法等情報の安全管理については、個情法施行規則第35条に定める基準に従い、必要な措置を講じなければならず、当該措置の内容は、対象となる加工方法等情報が漏えいした場合における復元リスクの大きさを考慮し、当該加工方法等情報の量、性質に応じた内容としなければならない21。同施行規則においては、①加工方法等情報を取り扱う者の権限及び責任を明確に定めること、②加工方法等情報の取扱いに関する規程類を整備し、当該規程類に従って加工方法等情報を適切に取り扱うとともに、その取扱いの状況について評価を行い、その結果に基づき改善を図るために必要な措置を講ずること、③加工方法等情報を取り扱う正当な権限を有しない者による加工方法等情報の取扱いを防止するために必要かつ適切な措置が求められている22

次に、匿名加工情報それ自体については、個人情報と同様の取扱いを求めるものではないが、それも参考にしつつ、具体的には、事業の性質、匿名加工情報の取扱状況、取り扱う匿名加工情報の性質、量等に応じて、合理的かつ適切な措置を講ずることが望ましいとされている23

(5)統計情報への加工

統計情報とは、複数人の情報から共通要素に係る項目を抽出して同じ分類ごとに集計して得られるデータであり、集団の傾向又は性質などを数量的に把握するものである。

したがって、統計情報は、特定の個人との対応関係が排斥されている限りにおいては、「個人に関する情報」に該当せず、個情法の規制の対象外と整理されている24

したがって、例えば、第三者提供における本人同意(個情法第27条第1項)が不要であるなど、データの利活用を推進することが可能となり、また、同法第23条に基づく安全管理措置義務も課されない。

ただし、法的な義務がないからといって何らの対策も行わなくてよいものではなく、こうしたデータが漏えい等した場合に、企業に対する風評被害が生じるなど社会的責任を問われる可能性や、当該漏えい等に関して損害賠償責任等の法的責任を問われる可能性があるため、統計情報についても、適切な管理を行うことが重要であると考えられる。

3.参考資料(法令・ガイドラインなど)

  • 個情法第2条、第23条、第27条、第4章第3節、第4章第4節
  • 個情法施行規則第31条、第32条、第34条、第35条
  • 個情法ガイドライン(通則編)、個情法ガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)
  • 個情法QA
  • 個情委事務局「個人情報保護委員会事務局レポート:仮名加工情報・匿名加工情報パーソナルデータの利活用促進と消費者の信頼性確保の両立に向けて」

4.裁判例

特になし


[1]

個人データ等、個情法における定義についてはQ10を参照されたい。

[2]

なお、データを加工して社外へ提供するという場合には、データ取引に係る契約を締結するケースが多いと考えられる。データ取引に関する契約についてはQ44を参照されたい(特に「派生データ」について)。

[3]

個情法ガイドライン(通則編)3-4-2参照。

[4]

個情法ガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)2-1-1(1)参照。

[5]

削除情報等とは、仮名加工情報の作成に用いられた個人情報から削除された記述等及び個人識別符号並びに個情法第41条第1項により行われた加工の方法に関する情報をいう(同条第2項カッコ書)。

[6]

個情法ガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)2-2-1参照。

[7]

個人情報に該当でない仮名加工情報を取り扱うに当たっては、上記⑤⑥⑦と同様の義務に加えて、安全管理措置義務等の義務が課される(同法第42条第3項)。

[8]

仮名加工情報を作成する前に本人の同意を得ていた場合であっても、仮名加工情報を第三者に提供することはできない(QA14-17参照)。

[9]

詳細については、個情法ガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)2-2-2-1を参照されたい。

[10]

個情法ガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)2-2-2-1参照。

[11]

個情法ガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)2-2-2-2参照。

[12]

具体例については、個情法ガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)2-2-2-2を参照されたい。

[13]

個情法ガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)2-2-4-2(1)参照。

[14]

事務局レポート3頁、9頁参照。

[15]

事務局レポート9頁参照。

[16]

個情法ガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)3-1-1参照。

[17]

匿名加工情報の作成に用いた個人情報から削除した記述等及び個人識別符号並びに同法第43条第1項の規定により行った加工の方法に関する情報(その情報を用いて当該個人情報を復元することができるものに限る)をいう(同法施行規則第35条第1号)。なお、氏名等を仮IDに置き換えた場合における氏名と仮IDの対応表は、匿名加工情報と容易に照合することができ、それにより匿名加工情報の作成の元となった個人情報の本人を識別することができるものであることから、匿名加工情報の作成後は破棄しなければならず、氏名等の仮IDへの置き換えに用いた置き換えアルゴリズムと乱数等のパラメータの組み合わせを保有している場合には、当該置き換えアルゴリズム及び当該乱数等のパラメータを用いて再度同じ置き換えを行うことによって、匿名加工情報とその作成の元となった個人情報とを容易に照合でき、それにより匿名加工情報の作成の元となった個人情報の本人を識別することができることから、匿名加工情報の作成後は、氏名等の仮IDへの置き換えに用いた乱数等のパラメータを破棄しなければならない。(個情法ガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)3-2-3-1参照)。

[18]

なお、匿名加工情報取扱事業者には、⑤に関して加工方法等情報の取得も禁止されている。

[19]

事務局レポート4.1.4.2参照。

[20]

個情法ガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)3-2-2参照。

[21]

個情法ガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)3-2-3-1参照。

[22]

具体例については、個情法ガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)3-2-3-1を参照されたい。

[23]

個情法ガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)3-2-3-2参照。

[24]

個情法ガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)3-1参照。

Q16 クレジットカード情報の取扱い

クレジットカード情報を取り扱うに当たって、セキュリティ上どのような点に留意すべきか。

タグ:割賦販売法、クレジットカード情報、PCI DSS、非保持化、重要インフラ分野、クレジットカード・セキュリティガイドライン

1.概要

クレジットカードによる決済は、利用可能な店舗等が拡大しており、現在社会的なインフラとなっている。また、キャッシュレス化の推進に伴い、クレジットカード決済のより一層の進展が見込まれている。一方、クレジットカード情報の漏えいやクレジットカード情報の不正利用も発生しており、割賦販売法(昭和36年法律第159号)では、安全・安心なクレジットカード利用環境を整備するため、クレジットカードを発行する事業者(クレジットカード等購入あっせん業者)、加盟店に立替払いを行う事業者(立替払取次業者)、決済代行業者、コード決済事業者、コード決済事業者の受託者、決済システムの中で大量のクレジットカード番号等の取扱いを受託する事業者、及び加盟店に対して、クレジットカード情報の漏えい等の事故を防止するための適正管理を義務付けるとともに、加盟店に対してはクレジットカード情報の不正利用を防止するための措置を義務付けている。

これらの措置については、「クレジットカード・セキュリティガイドライン」(以下、本項において「ガイドライン」という。)を実務上の指針としており、ガイドラインに掲げる措置又はそれと同等以上の措置を講じている場合には、法令に基づく措置を講じていると認められることとしている。

2.解説

(1)クレジットカードに関するセキュリティ確保の重要性

クレジットカードによる決済は、利用可能な店舗等が拡大しており、現在社会的なインフラとなっており、キャッシュレス化の推進に伴い、クレジットカード決済のより一層の進展が見込まれている。重要インフラ行動計画においても、クレジット分野は、重要インフラ分野1の一つとして位置付けられており、セキュリティ強化の更なる取組みが求められている。

一方、クレジットカード情報の漏えいやクレジットカード情報の不正利用も発生しており、こうした不正利用に対する対策の必要性に鑑み、割賦販売法は、クレジットカード番号等の適切な管理に関する規定や、クレジットカード番号等の不正な利用の防止に関する規定を置いている。

(2)クレジットカード番号等の適切な管理

割賦販売法では、クレジットカード等購入あっせん業者、立替払取次業者、決済代行業者、コード決済事業者、コード決済事業者の受託者、加盟店及びECモール事業者等の決済システムの中で大量のクレジットカード番号等の取扱いを受託する事業者等(これらを併せて以下「クレジットカード情報取扱事業者」という。)に対して、割賦販売法施行規則に定められた基準に従い、クレジットカード番号の漏えい、滅失又は毀損の防止その他のクレジットカード番号等の適切な管理のために必要な措置を講ずることを求めている(割賦販売法第35条の16第1項)。

具体的な基準は、以下のとおりである(割賦販売法施行規則第132条第1号~第5号)。

  1. クレジットカード番号等の漏えい、滅失、毀損その他のクレジットカード番号等の管理に係る事故(以下、本項において「漏えい等の事故」という。)を防止するため必要かつ適切な措置を講ずること。
  2. 漏えい等の事故が発生し、又は発生したおそれがあるときは、直ちに事故の状況を把握し、事故の拡大を防止するとともに、その原因を究明のために必要な調査(当該事故に係るクレジットカード番号等の特定を含む。)を行うこと。
  3. 漏えい等の事故が発生し、又は発生したおそれがあるときは、当該事故の対象となったクレジットカード番号等を利用者に付与したクレジットカード等購入あっせん業者は、不正利用されることを防止するために必要な措置を講ずること。
  4. 漏えい等の事故が発生し、又は発生したおそれがあるときは、類似の漏えい等の事故の再発防止のために必要な措置を講ずること。
  5. クレジットカード番号等をクレジットカード取引の健全な発達を阻害し、又は利用者若しくは購入者等の利益の保護に欠ける方法により取り扱わないこと。

また、クレジットカード情報取扱事業者は、クレジットカード情報の取扱いを委託した事業者(以下「受託業者」という。)に対して、クレジットカード番号等の適切な管理が図られるよう、受託業者に対する指導その他の適切な措置を講じなければならない(割賦販売法第35条の16第3項)。

これらの措置に関しては、ガイドラインを実務上の指針としており、このガイドラインに掲げる措置又はそれと同等以上の措置を講じている場合には、法令上の基準となる「必要かつ適切な措置」を満たしているとされている2

令和4年に公表されたガイドライン3.0版においては、クレジットカード番号等の漏えい防止措置として、クレジットカード等購入あっせん業者、立替払取次業者、決済代行業者及びコード決済事業者等に対して、国際ブランド(VISA、Mastercard、JCB、American Express、Discover)が定めたクレジットカード情報についてのセキュリティの国際基準であるPCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard)3の準拠が求められている。また、加盟店については、クレジットカード決済の際にクレジットカード情報を通過・保持しない方法(非保持化)を推奨しており、クレジットカード番号等を保持する場合にはPCI DSS準拠が求められている。ただし、非保持化を実現した場合であっても、ウェブサイトの開発・運用段階での対応が不十分であるとクレジットカード情報が漏えいするリスクがあることから、自社システムの定期的な点検や追加的な対策の実施等が重要である。また、不正犯の攻撃手口も巧妙化していることから、新たな攻撃手口への速やかな対応が必要となる。同ガイドラインは、令和5年3月に4.0版が公表されており、加盟店について、上記、クレジットカード情報の非保持又はPCI DSSに加えて、一定の対策を取ることが求められている4ので、留意を要する。

経済産業大臣は、クレジットカード等購入あっせん業者、立替払取次業者、決済代行業者又はコード決済事業者等が講じるクレジットカード番号等の適切管理に係る措置が法令上の基準に適合しないと認めるときは業務改善命令を発出することができる(割賦販売法第35条の17)。

(3)クレジットカード番号等の不正な利用の防止

加盟店は、施行規則に定められた基準に従って、クレジットカード番号等の不正な利用を防止するために必要な措置を取らなければならない(割賦販売法第35条の17の15)。

具体的な基準は、以下のとおりである(割賦販売法施行規則第133条の14)。

  1. クレジットカード番号等の通知を受けたとき、当該通知が正当な利用者によるものかについての適切な確認その他の不正利用を防止するために必要かつ適切な措置を講ずること。
  2. 加盟店において不正利用されたときは、その発生状況を踏まえ、類似の不正利用を防止するために必要な措置を講ずること。

これらの措置の実務上の指針であるガイドラインにおいては、対面加盟店における偽造カードによる不正利用防止策として、クレジットカードのIC化及び加盟店の決済端末のIC対応を求めており、また、非対面加盟店におけるなりすまし等による不正利用防止策として、パスワードによる本人認証(EMV3-D)、セキュリティコードによる券面認証、不正検知システムによる不正取引判断等の措置をリスクに応じて多面的・重層的に導入することを求めている。

3.参考資料(法令・ガイドラインなど)

  • 割賦販売法第35条の16、同第35条の17、同第35条の17の15
  • 割賦販売法施行規則第132条、同第133条の14
  • クレジット取引セキュリティ対策協議会「クレジットカード・セキュリティガイドライン[3.0版]」、同[4.0版]

4.裁判例

  • 東京地判平成21年11月11日判時2073号64頁
  • 東京地判平成26年1月23日判時2221号71頁
  • 東京地判令和元年12月20日(平成29年(ワ)第6203号)
  • 東京地判令和2年10月13日(平成28年(ワ)第10775号)

Q17 労働者の心身の状態に関する情報の取扱い

労働者の心身の状態に関する情報を取り扱う際のセキュリティ対策を含めた留意点は何か。

タグ:労働安全衛生法、じん肺法、個情法、労働契約法、労働者、メンタルヘルス、健康診断

1.概要

事業者は、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)の規定に基づく定期健康診断の実施等の健康確保措置や任意に行う労働者の健康管理等を通じて労働者の心身の状態に関する情報の収集等を行うこととなる。当該情報は、労働者の健康確保の観点から事業者が取り扱う必要があるものである一方で、労働者側からみれば雇用管理において自身にとって不利益な取扱いを受けることが懸念されるものでもある。

そのため、労働安全衛生法において、事業者に対し適正な取扱いが求められている。また、同時に個情法における個人情報であり、要配慮個人情報であることも多い。そこで、労働者の心身の状態に関する情報の適切な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針の内容を踏まえ、個情法や労働安全衛生法によって規定されている情報の取扱いの定めに従う必要がある。具体的には、労使関与の下で事業所ごとに取扱規程を定め、労働者の健康確保の実施や事業者が負う民事上の安全配慮義務の履行の目的の範囲で適正に取扱い、情報の収集に当たっては適切な説明を行うこと、必要に応じて労働者本人の同意を取得すること、労働者を不利益に取扱わないこと、情報の取扱者を制限することなどの措置をとることが必要である。

2.解説

(1)「労働者の心身の状態に関する情報」と個情法

事業者(個人情報取扱事業者)は、事業活動を行うために労働者を雇用し、その雇用する労働者について、氏名、年齢、性別など基本的な情報に加え、給与の額、勤務状況、勤務成績など多くの情報を保有している。これらの労働者の情報は、個人情報(個情法第2条第1項)に該当し、個情法に基づいた取扱いを行わなければならない。また、労働者の情報には、労働者の病歴や健康診断の結果、健康診断の結果に基づき医師から指導等を受けたこと、すなわち労働者の心身の状態に関する情報も含まれる。このような労働者の心身の状態に関する情報のほとんどが、要配慮個人情報(個情法第2条第3項)に該当しうる。個情委・厚労省「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」(平成29年5月29日)5(以下、本項において「留意事項」という。)によれば、例えば、労働安全衛生法の諸規定に基づく健康診断の結果やストレスチェックの結果等が要配慮個人情報にあたるとされている。要配慮個人情報に該当する場合には、その取得に当たって原則として本人同意を得る必要がある(同法第20条第2項)、オプトアウトによる第三者提供は認められない(同法第27条第2項)など、要配慮個人情報としての取扱いに係る規律に留意しなければならない。要配慮個人情報に該当する具体例を含め、個情法に基づく具体的な取扱いの方法については、留意事項を参照されたい。

(2)「労働者の心身の状態に関する情報」と労働安全衛生法

事業者は労働者に対して安全配慮義務を負っており、この履行として労働者の健康管理活動を行う必要がある(労働契約法第5条、最判昭和50年2月25日民集29巻2号143頁)。また、労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進する目的で、事業者に様々な労働者の健康管理措置を行うことを求めている(労働安全衛生法第66条以下)。同法にいう事業者とは、「事業を行う者で、労働者を使用するものをいう。」と定義されており(同法第2条第3号)、業種や分野、法人格の有無を問わない。法人企業であれば当該法人(法人の代表者ではない。)、個人企業であれば事業経営主を指し、事業経営の利益の帰属主体そのものを義務主体としている6

したがって、労働者の健康管理活動や健康確保措置を行うため、事業者は労働者の心身の状態に関する情報を取得する必要がある。もっとも、労働者側としては自身の心身の状態についての情報により不利益な取扱いを受けるという懸念があり、自身の心身の情報について、事業者に対して、取得、利用、管理のそれぞれの場面に応じた適切な管理を望んでいる。

このような観点から、平成30年改正労働安全衛生法は、事業者は、労働者の心身の状態の情報を収集、保管、又は使用するに当たっては、労働者の健康の確保に必要な範囲内で収集し、当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、使用しなければならないとしている(労働安全衛生法第104条第1項)。加えて、労働者の心身の状態に関する情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならないとしている(同条第2項)7

このように「労働者の心身の状態に関する情報」には、健康診断の結果などの要配慮個人情報も含まれ、さらに労働安全衛生法によっても事業者に適切な取扱いが要請される情報でもある。したがって、その取扱いに当たっては、個情法や労働安全衛生法との関係に留意することが必要である。このうち、要配慮個人情報を含む個人情報の取扱いに関しては、留意事項を、また、労働者安全衛生法による労働者の心身の状態に関する情報の取扱いについては、「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」(以下、本項において「指針」という。労働安全衛生法第104条第3項参照)を参照されたい。

(3)労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針

労働者の心身の状態の情報をどのように取扱うかについては、指針において具体的に示されている。

指針においては、まず、心身の状態の情報の取扱いに関する原則として、①取扱いの目的は労働者の健康確保や安全配慮義務の履行のためであり、そのために必要な情報を適正に収集し、活用すること、②事業者による労働者の健康確保措置が十全に行われるよう事業所における取扱規程を定めること、③心身の状態の情報を取扱う目的や取扱い方法、取扱者、取扱う情報の範囲などを取扱規程に定めること、④取扱規程については、労使関与の下で定めるとともに労働者へ周知すること、⑤情報取扱者の制限や情報の加工など適正な取扱いのための体制を整備すること、⑥情報の収集に当たって本人同意の取得や利用目的、取扱い方法の周知を行うこと、⑦労働者に対する不利益な取扱いを防止することなどが定められている。

また、同様に、心身の状態の情報の適正管理(労働安全衛生法第104条第2項関係)の方法についても示されている。具体的には、①心身の状態の情報の適正管理のための規程として、心身の状態の情報の正確性の確保、安全管理措置、適切な消去等について、事業場ごとに取扱規程に定めること、②労働者からの開示請求、訂正等に適切に対応することなどが定められている。

(4)健康診断等の事務を実施した者の守秘義務等について

その他、労働安全衛生法に基づく労働者の心身の状態に関する情報の取扱いに関しては、同法第105条にも留意を要する。同条は、同法に基づく健康診断、面接指導、ストレスチェック等の実施事務に従事した者に対して、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない旨を規定するものであり、これに違反した者に対しては、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられる(同法第119条第1号)89。これに関連して、個人の健康診断結果や服薬歴等の健診等情報を電子記録として本人や家族が正確に把握するための仕組み(Personal Health Record、以下「PHR」という。)について、適切に民間PHRサービスが利活用されるための民間PHR事業者におけるルール整備等が必要であるとされたことを受け、PHRサービスを提供する民間事業者が遵守すべき事項について、総務省、厚労省、経産省から、「民間PHR事業者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針」が公表された。同指針には、①健診等情報を取り扱うに当たって、その漏えい、滅失又は毀損の防止その他の安全管理のためにPHR事業者が講じなければならない措置の内容・具体例、②PHR事業者が健診等情報を取り扱うに当たって、法規制に基づいて遵守しなければならない事項、同指針に基づき遵守しなければならない事項の内容等が示されている。また、別紙には、同指針に係るチェックリストも付属しており、参考になる。

(5)補論・職業安定法と個人情報

労働者の心身の状態に関する情報では必ずしもないが、近年、内定辞退率を提供するサービス10に関連して、職業安定法と個人情報についても話題になったことから、これについても簡単に記載しておく。

職業安定法は、第5条の5第1項において、公共職業安定所等11は、求職者等の個人情報を収集し、保管し、又は使用するに当たっては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない旨を定め、第2項において、公共職業安定所等は、求職者等の個人情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならない旨を定めている。

そして、第51条第1項では、職業紹介事業者等12の守秘義務を、第2項では、そのほかその業務に関して知り得た個人情報その他厚生労働省令で定める者に関する情報を、みだりに他人に知らせてはならない旨を定めている。

この第51条に関して、前述の内定辞退率を提供するサービスに端を発して、厚生労働省職業安定局長通達が出されており、そこでは、「本人の同意なく、あるいは仮に同意があったとしても同意を余儀なくされた状態で、学生等の他社を含めた就職活動や情報収集、関心の持ち方などに関する状況を、本人があずかり知らない形で合否決定前に募集企業に提供する事は、募集企業に対する学生等の立場を弱め、学生等の不安を惹起し、就職活動を萎縮させるなど学生等の就職活動に不利に働く恐れが高い。このことは本人同意があっても直ちに解消する問題ではなく、職業安定法第51条第2項に違反する恐れもあるため、今後、募集情報等提供事業や職業紹介事業等の本旨に立ち返り、このような事業を行わないようにすること」とされた13

3.参考資料(法令・ガイドラインなど)

  • 労働安全衛生法第104条、第105条、じん肺法(昭和35年法律第30号)第35条の3、第35条の4
  • 個情委、厚労省「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」(平成29年5月29日)
    https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/ryuuijikou_health_condition_info/
  • 労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針(平成30年9月7日 労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱い指針公示第1号)
  • 厚労省「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」(平成31年3月)
  • 総務省、厚労省、経産省「民間PHR事業者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針」(令和3年4月23日策定、令和4年4月一部改定)

4.裁判例

本文中に記載のとおり


[5]

都道府県労働局長宛て個人情報保護委員会事務局長・厚生労働省労働基準局長通知「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項について(通知)」(平成29年5月29日付個情第749号・基発0529第3号)も参照。

[6]

都道府県労働基準局長宛て労働事務次官通達「労働安全衛生法の施行について」昭和47年9月18日発基第91号)

[7]

労働者の心身の状態に関する情報の取扱いについては、同様の規定がじん肺法第35条の3にも設けられている。

[8]

なお、罰則付きの守秘義務については、Q80も参照。

[9]

守秘義務については、じん肺法第35条の4にも規定されている。

[10]

当該サービスに対しては、個人情報保護委員会による個情法上の勧告が公開されている。問題となったサービス概要についても、当該勧告に記載されている。
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/191204_houdou.pdf

[11]

公共職業安定所、特定地方公共団体、職業紹介事業者及び求人者、労働者の募集を行う者及び募集受託者並びに労働者供給事業者及び労働者供給を受けようとする者、と同条項で定義されている。

[12]

求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、労働者供給事業者及び労働者供給を受けようとする者、と同条項で定義されている。

[13]

募集情報等提供事業等の適正な運営について
https://www.mhlw.go.jp/content/000576588.pdf

Q18 マイナンバーの取扱い

企業がマイナンバーを取り扱う上で、その安全管理を含め留意しなければならない点は何か。

タグ:番号利用法、個情法、マイナンバー、個人番号、安全管理措置

1.概要

マイナンバー(個人番号)については、その制度趣旨に鑑み、利用主体や利用範囲の限定、厳格な本人確認、提供等の制限等の個情法における個人情報には見られない対応が求められる。

2.解説

(1)マイナンバー制度の趣旨と個人情報との相違

マイナンバー制度は、行政運営の効率化と国民の利便性の向上を図り、公平・公正な社会を実現する基盤となるものである(番号利用法第1条参照)が、全ての住民に指定される個人識別のための番号である(同法第2条第5項参照)ことから、安全かつ適正な取扱いを担保するため、企業がマイナンバーを取り扱う際には、以下のとおり、個情法に規定する「個人情報」1には見られない対応が求められる。

(2)利用主体や利用範囲を法律で限定

マイナンバーは、番号利用法に定められた、①社会保障・税・災害対策等分野の行政事務(個人番号利用事務。番号利用法第2条第10項参照。)2、②個人番号利用事務に関して行われている事務(個人番号関係事務。番号利用法第2条第11項参照。)の範囲内に限り、利用が認められる。本人の同意を得たとしても、この範囲を超えて利用することはできない。

企業においては、例えば、雇用保険被保険者資格取得届や源泉徴収票の作成等の個人番号関係事務に必要な限度で、個人番号関係事務実施者として、マイナンバーの利用が認められる。

(3)厳格な本人確認

個人番号利用事務実施者及び個人番号関係事務実施者は、本人からマイナンバーの提供を受けるときは、なりすましを防止するため、本人確認(番号確認と身元確認)措置をとらなければならない(番号利用法第16条参照)。

企業においては、例えば、雇用保険被保険者資格取得届や源泉徴収票の作成等の個人番号関係事務に当たり、従業員等本人からマイナンバーの提供を受けるときは、マイナンバーカード等による本人確認を行う必要がある。

(4)提供等の制限

マイナンバーを含む個人情報3については、番号利用法で定められた一定の場合を除き、提供の求め・提供・収集・保管が禁止される(番号利用法第15条、第19条、第20条参照)。本人の同意を得たとしても、番号利用法で定められた場合に該当しない限り、提供等は認められない。

また、(2)の事務(個人番号利用事務・個人番号関係事務)を第三者に委託することは可能であるが、再委託に当たっては、委託元の許諾が必要となる(番号利用法第10条第1項参照)。

(5)安全管理措置

個人番号関係事務実施者又は個人番号利用事務実施者である事業者は、個人番号及び特定個人情報(以下「特定個人情報等」という。)の漏えい、滅失又は毀損の防止その他の特定個人情報等の管理のために、必要かつ適切な措置を講じなければならない(番号利用法第12条、個情法第23条)。

安全管理措置の具体的な内容については、個情委「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」の「(別添1)特定個人情報に関する安全管理措置(事業者編)」が参考になる。また、特定個人情報の漏えい等が発生した場合の個情委への報告等については、Q7を参照。

3.参考資料(法令・ガイドラインなど)

本文中に記載のとおり

4.裁判例

特になし


[1]

なお、番号利用法は、「個人情報」の定義について個情法を引用している。従来は、番号利用法において、個人情報とは、「行個法に規定する個人情報であって行政機関が保有するもの」、「独個法に規定する個人情報であって独立行政法人等が保有するもの」又は「個情法に規定する個人情報であって行政機関及び独立行政法人等以外の者が保有するもの」である旨規定していたが、デジタル社会整備法による改正に伴い個人情報の定義が統合されたことに伴い、番号利用法における個人情報の定義も改正された(現行の番号利用法第2条第3項において、「この法律において「個人情報」とは、個人情報保護法第二条第一項に規定する個人情報をいう。」と規定されている)。

[2]

ただし、この点については、2023年3月7日、第211回国会(通常国会)に提出され、6月2日に可決成立した「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和5年法律第48号)において改正が行われる。理念として、社会保障制度、税制及び災害対策以外の行政事務においてもマイナンバーの利用の推進を図る旨、改正がなされる。具体的な利用事務の追加は、従来どおり法律改正で追加され、理容師・美容師、小型船舶操縦士及び建築士等の国家資格等、自動車登録、在留資格に係る許可等に関する事務において、マイナンバーの利用を可能とする。
https://www.digital.go.jp/laws/8db62cdf-8375-4c4f-b807-8d98595b67e8/

[3]

番号利用法第2条第8項は、マイナンバー(個人番号)をその内容に含む個人情報を「特定個人情報」と定義している。

Q19 マイナンバーカード

民間企業がマイナンバーカードを活用することは可能か。

タグ:番号利用法、公的個人認証法、マイナンバーカード、本人確認、身分証明証、公的個人認証、通知カード

1.概要

マイナンバーカードは、①マイナンバーの提示書類、②顔写真付き本人確認書類、③オンラインでの確実な本人確認という3つの機能を有しており、民間企業もマイナンバーカードを活用することができる。

2.解説

(1)マイナンバーカード

マイナンバーカード(個人番号カード)とは、券面に氏名、生年月日、性別、住所及びマイナンバーが記載されたプラスチック製のICカードであり、申請者に対して、市区町村が厳格な本人確認を実施した上で交付している。マイナンバーカードの全国の人口に対する保有枚数率は、令和5年6月末時点で70.0%となっており1、マイナンバーカードの普及率は向上しつつある。

マイナンバーカードには、①マイナンバーの提示書類、②顔写真付き本人確認書類、③オンラインでの確実な本人確認という3つの活用方法がある。その他、令和3年3月からマイナンバーカードを健康保険証として利用することが可能となり、また、令和6年度末にはマイナンバーカードと運転免許証との一体化が予定される2など、活用範囲の拡大が図られている。

(2)マイナンバーカードの活用方法① マイナンバーの提示書類

マイナンバーカードは裏面にマイナンバーが記載されており、マイナンバーの提示書類として活用できる。

マイナンバーを使う手続の際に必要となるマイナンバーの確認は、マイナンバーが記載された住民票の写しなどによって行うことができるが、その場合は、別途本人確認のために顔写真付き本人確認書類等の提示が必要になる一方、マイナンバーカードを活用すれば、マイナンバーの確認と本人確認を1枚で行うことができる。

(3)マイナンバーカードの活用方法② 顔写真付き本人確認書類

会員登録や銀行口座の開設など対面での本人確認が求められる様々な場面で、顔写真付き本人確認書類としてマイナンバーカードを活用できる。

ただし、身分証明書として利用すると偽って、カード裏面のマイナンバーを盗み見たり、書き取ったりすることは違法である。身分証明書を確認する際に、例えば、運転免許証であれば、運転免許証番号を別途メモ等にとることがあるが、マイナンバーカードの場合はマイナンバーを別途メモ等にとることはできない点に注意する必要がある。

(4)マイナンバーカードの活用方法③ オンラインでの確実な本人確認

マイナンバーカードのICチップに搭載された電子証明書を用いることで、オンラインでの確実な本人確認を行うことができる。

ICチップに搭載されている電子証明書には、以下の2種類がある。

署名用電子証明書
インターネット等で電子文書を作成・送信する際に利用するものであり、当該電子文書が、利用者が作成した真正なものであり、利用者が送信したものであることを証明できる。例えば、e-Taxによる確定申告等のオンライン申請で利用することができる。
利用者証明用電子証明書
インターネットサイトやコンビニ等のキオスク端末等にログインする際に利用するものであり、ログインした者が利用者本人であることを証明することができる。例えば、マイナポータルへのログインや、コンビニでの証明書交付サービスなどで利用することができる。

また、マイナンバーカードのICチップの空き領域を活用し、カードアプリケーションを搭載することにより、例えば、物理的な入退室管理カード、チケット購入、ポイント付与等に活用することも可能である3

(5)マイナンバーの利用制限とマイナンバーカード

マイナンバーの利用範囲は、番号利用法において、行政機関等に限定されている4が、マイナンバーカードの利用については番号利用法上、基本的に利用範囲に制限がなく、民間企業も上記の機能を利用することができる。

なお、マイナンバーカードの利用とマイナンバーそのものの利用とは法的性質を異にする。マイナンバーカードは、裏面にマイナンバーが記載されているものの、カードの利用は、マイナンバーそのものを利用しない限りは、マイナンバーの利用とはみなされない。マイナンバーそのものを利用するとは、①マイナンバーの提示書類としての機能のように、マイナンバーカードに記載されたマイナンバーの確認、コピー、又はマイナンバーカードのICチップ内に記録されたマイナンバーの読み取り等を指す。これに対して、②顔写真付き本人確認書類、③オンラインでの確実な本人確認の場合は、マイナンバーそのものを確認・取得等することなく、マイナンバーカードを利用しているだけであるので、マイナンバーの利用にはあたらない。

3.参考資料(法令・ガイドラインなど)

  • 番号利用法
  • 電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律(公的個人認証法)

4.裁判例

特になし


[1]

総務省「マイナンバーカード交付状況について」
https://www.soumu.go.jp/kojinbango_card/kofujokyo.html

[2]

「デジタル社会の実現に向けた重点計画(令和5年6月9日閣議決定)」49頁

[3]

詳細については、総務省自治行政局住民制度課「民間事業者による個人番号カードの空き領域の活用について」を参照されたい。

[4]

マイナンバーの利用範囲については、Q18を参照されたい。