Q35 電気通信サービスと電気通信事業法に基づく登録・届出
どのような事業を行うと電気通信事業者に該当するか。
タグ:電気通信事業法、外国法人等が電気通信事業を営む場合における電気通信事業法の適用に関する考え方、電気通信事業参入マニュアル、電気通信事業参入マニュアル[追補版]、電気通信事業参入マニュアル(追補版)ガイドブック
1.概要
情報通信ネットワークを構築するための通信インフラは、サイバー空間における活動を支える基盤である。今日において、いかなる事業も多かれ少なかれ通信インフラを利用しているが、電気通信事業者として登録又は届出が必要となるのはどのような事業を行う場合であろうか。
2.解説
(1)電気通信事業を営む場合
電気通信事業法(昭和59年法律第86号。以下、本項において「事業法」という。)は、電気通信事業(事業法第2条第4号)を営もうとする者は、同法第9条の規定による登録を受け、又は第16条第1項の規定による届出を行う必要がある旨を定める。事業法第9条の登録を受けた者及び第16条第1項の規定による届出をした者を電気通信事業者という(事業法第2条第5号)。
(2)外国法人等が電気通信事業を営む場合に関する事業法等の改正
令和3年4月1日、外国法人等が電気通信事業を営む場合の規定を整備した電気通信事業法の改正法が施行された。当該施行に伴って、令和3年2月12日、総務省は「外国法人等が電気通信事業等を営む場合における事業法の適用に関する考え方」を公表し、外国法人等(外国の法人及び団体並びに外国に住所を有する個人をいう。以下同じ。)が営む電気通信事業に対する事業法の適用に関する解釈が示された。
具体的には、事業法は、①外国法人等が、日本国内において電気通信役務を提供する電気通信事業を営む場合のほか、②外国から日本国内にある者に対して電気通信役務を提供する電気通信事業を営む場合に適用されること、さらに、②については、外国から日本国内にある者(訪日外国人を含む。)に対する電気通信役務の提供の意図を有していることが明らかであることを指し、例えば、aサービスを日本語で提供している場合、b有料サービスにおいて決済通貨に日本円がある場合、c日本国内におけるサービスの利用について広告や販売促進等の行為を行っている場合には、当該意図を有していることが明らかと判断され得ること等の解釈が示されている。また、改正された事業法は、外国法人等に対して、電気通信事業の登録又は届出を行う際には、国内における代表者又は国内における代理人を定めて総務大臣に提出することを求める(事業法第10条第1項第2号)。
(3)登録又は届出を行うことを要する場合
次の①から④の全てに該当する場合は、事前に登録(事業法第9条)又は届出(事業法第16条第1項)を行うことを要する。なお、登録、届出のいずれの手続が必要かを含め、詳しい内容は総務省ホームページ(https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/denkitsushin_suishin/tetsuzuki/)に掲載されている「電気通信事業参入マニュアル」[追補版]及び「電気通信事業参入マニュアル(追補版)ガイドブック」を参照されたい。
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提供する役務が「電気通信役務」に該当すること
電気通信役務とは、a電気通信設備を用いてb他人の通信を媒介し、その他c電気通信設備を他人の通信の用に供することをいう(事業法第2条第3号)。
- 「電気通信設備」とは、電気通信(有線、無線その他の電磁的方式により、符号、音響又は影像を送り、伝え、又は受けること。)(事業法第2条第1号)を行うための機械、器具、線路その他の電気的設備をいう(事業法第2条第2号)。
- 「他人の通信を媒介する」とは、他人の依頼を受けて、情報をその内容を変更することなく伝送・交換し、隔地者間の通信を取次ぎ、又は仲介してそれを完成させることをいう。
- 「電気通信設備を他人の通信の用に供する」とは、広く電気通信設備を他人の通信のために運用することをいう。
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事業が「電気通信事業」に該当すること
電気通信事業とは、電気通信役務をd他人の需要に応ずるために提供するe事業(放送法(昭和25年法律第132号)第118条第1項に規定する放送局設備供給役務に係る事業を除く。)をいう(事業法第2条第4号)。
- 「他人の需要に応ずるため」とは、電気通信役務の提供について自己の需要のために提供していることではなく、他人の需要に応ずることを目的とすることをいう。
- 「事業」とは、主体的・積極的意思、目的をもって同種の行為を反復継続的に遂行することをいう。
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「事業法の適用除外」に該当しないこと
次の場合には、「適用除外となる電気通信事業」(事業法第164条第1項)に該当する。
表1「適用除外となる電気通信事業」※令和4年改正(令和4年法律第70号)の後のもの
- 専ら一の者に電気通信役務(当該一の者が電気通信事業者であるときは、当該一の者の電気通信事業の用に供する電気通信役務を除く。)を提供する電気通信事業(同項第1号)
- その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(これに準ずる区域内を含む。)又は建物内である電気通信設備その他総務省令で定める基準(設置する線路のこう長の総延長が5km)に満たない規模の電気通信設備により電気通信役務を提供する電気通信事業(同項第2号)
- 他人の通信を媒介しない電気通信役務(ドメイン名電気通信役務、検索情報電気通信役務、媒介相当電気通信役務(後二者にあっては、当該電気通信役務を提供する者として総務大臣が総務省令で定めるところにより指定する者により提供されるものに限る)を除く。)を電気通信回線設備を設置することなく提供する電気通信事業(同項第3号)
このうち、第3号の適用除外となる電気通信事業には、以下のものが含まれる(総務大臣が総務省令で定めるところにより指定する者による検索情報電気通信役務又は媒介相当電気通信役務を提供する電気通信事業は除く。)。
- 電子メールマガジンの配信(企業等から提供された製品PRやイベント開催案内等に関する情報を元に電子メールマガジンを作成し、あらかじめ登録した購読者等に対して送信するもの)
- 各種情報のオンライン提供(電気通信設備(サーバ等)を用いて、天気予報やニュース等の情報を、インターネットを経由して利用者に提供するもの)
- ウェブサイトのオンライン検索(広範なウェブサイトのデータベースを構築し、検索語を含むウェブサイトのURL等を、インターネットを経由して利用者に提供するもの)
- ソフトウェアのオンライン提供(クラウド上にアプリケーションソフトウェアを構築し又はアプリケーションソフトウェアをインストールしたサーバ等を設置し、インターネット等を経由して当該ソフトウェアを企業や個人等に利用させるもの)
- オンラインストレージ(利用者がデータを保存することを目的として、サーバ等を設置して、インターネット等を経由して利用者のデータ等を受信して保存するもの)
- オープン・チャット(インターネット経由で不特定多数の利用者がリアルタイムで文字ベースの会話を行うことができる「場」を提供するもの)
- ECモール/ネットオークション/フリマアプリの運営(インターネット経由で複数の店舗でネットショッピングを行うことができる又は複数の出品者の商品等を購入できる「場」を提供するもの)
なお、適用除外となる電気通信事業である場合でも、事業法第3条(検閲の禁止)及び第4条(通信の秘密の保護)は当該電気通信事業を営む者の取扱中に係る通信については、適用されるので(事業法第164条第3項)、注意が必要である。また、適用除外となる電気通信事業を行う者についても、電気通信事業における個人情報等の保護に関するガイドライン(令和4年個人情報保護委員会・総務省告示第4号(最終改正令和5年個人情報保護委員会・総務省告示第5号))が適用される1ことにも注意が必要である。
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「電気通信事業を営むこと」に該当すること
「電気通信事業を営む」とは、電気通信役務を利用者に反復継続して提供して、電気通信事業自体で利益を上げようとすること、すなわち収益事業を行うことを意味する。
(4)登録又は届出を要する電気通信事業者の例示
「電気通信事業参入マニュアル」[追補版]には、電気通信事業について、登録又は届出を要する事例と登録又は届出を要しない事例が例示されているので参照されたい。もっとも、事業の内容によっては異なる判断となる場合があるので、個別かつ具体的な検討が必要である。また、いわゆる「クラウド」、「プラットフォーム」、「スーパーアプリ」、「ポータルサイト」等、様々なサービスが複合的に提供されている場合は、それぞれのサービスごとに、登録又は届出の要否を判断することとなる。
(5)参考:電気通信事業法改正法(令和4年)
令和4年6月13日に、電気通信事業法の一部を改正する法律が可決成立し(令和4年法律第70号)、令和5年6月16日に施行された。同改正は、主に、①情報通信インフラの提供確保、②安心・安全で信頼できる通信サービス・ネットワークの確保、③電気通信市場を巡る動向に応じた公正な競争環境の整備の3つよりなるが2、本ハンドブックと関連しうる②について触れておくと3、内容としては2点ある。1点目は、利用者の利益に及ぼす影響が大きい電気通信役務を提供する事業者に対する規律である。本規律の対象となる電気通信事業者に指定されると、特定利用者情報を適正に取り扱うべき電気通信事業者として、その情報の取扱規程の策定・届出、情報取扱方針の策定・公表等の義務が課されることとなる。2点目は、「外部送信規律」と呼ばれる規律であり、総務省からパンフレットも出されている45。ウェブサイトやアプリケーションを運営している事業者は、タグや情報収集モジュールを使って、利用者に関する情報を外部に送信する場合に、利用者が確認できるようにする義務が課されることとなる。
3.参考資料(法令・ガイドラインなど)
- 電気通信事業法(昭和59年法律第86号)
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総務省「電気通信事業参入マニュアル」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000739290.pdf -
総務省「電気通信事業参入マニュアル[追補版]」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000477428.pdf -
総務省「電気通信事業参入マニュアル(追補版)ガイドブック」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000799137.pdf -
総務省「外国法人等が電気通信事業を営む場合における電気通信事業法の適用に関する考え方」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000733072.pdf
4.裁判例
特になし